クラウド技術やビッグデータ、マシンラーニングといったIT技術革新をトリガーにした新規ビジネスが世界中で注目を浴びています。ドイツ政府はIndustry 4.0という政策を発表し、国を挙げて製造業の競争力強化を図ろうとしています。また米国では「Fintech(フィンテック)」という名前で金融サービスに関するスタートアップベンチャーがいくつも生まれてきました。

 日本でもこの大波に遅れずに乗ろうという機運が高まっています。「Fintechで新規事業を手掛けろ!」と、社長から号令がでている企業も多いのではないかと思います。

 ですが、こういう動機で始める「新規事業」のほとんどは失敗する、と私は思います。バブル全盛期、80年代後半から90年代のはじめにかけて、コンサルタントとして多くの大企業の新規事業プロジェクトが失敗する様子を見てきたからです。その多くがバブル崩壊とともに大企業に財務的、心理的な傷跡を残しました。

 当時、お付き合いのあったある会社の新規事業プロジェクトの責任者が、私にこんな愚痴をこぼしたことがあります。

 「心配するなら人をくれ、って話だよな。そうでしょ、楠さん」

 今の若い人は知らないかも知れませんが、当時人気のあった安達祐実主演のドラマの決めぜりふ「同情するなら金をくれ」のもじりです。思わず笑ってしまいましたが、彼は真剣でした。