研究開発プロジェクトの企画を担当する部長から次年度の計画について報告を受けた時のことです。いくら聞いてもどうもしっくりしないプロジェクトが1つありました。何年も継続しているのにほとんど成果がないのです。今年の活動予定を聞いても成果が出そうに感じられません。そもそもそれを説明する部長さんが内容に熱意を持っていない。仕方ないので素朴に質問してみました。

「なんでこのプロジェクトをやるのですか?成果は何を期待していますか?昨年とどう違いますか?」

 そうすると想像もしなかった返事が返ってきました。「私も成果はよく分からないのですが、前任の部長に聞いた限りでは、このプロジェクトは◯◯さんのご意向なのです」

何だそりゃ。

 ◯◯さんならよく知っています。合理的で無駄のない考え方の人ですし、その意味では大変尊敬もしている。その彼が何を「ご意向」なされたというのだろうか。無駄な研究で時間と金を無駄にしてくださいとでも? 彼に限ってそんなはずはありません。もしご意向があったとすれば、「成果が出るかどうかを突き詰めよ」という話のはずで、漫然と続けるのを良しとするとは思えませんでした。

 そう思ったので件の部長には、「成果が見込めないなら今年は止めたら?」と言ってみました。すると今度は「それは楠さんのご意向なのですか?」と来た。おっと、すごいことを聞かれてしまいました。もしYesと答えたら、この私の「ご意向」がこの先どんな誤解と時間の無駄を引き起こすのか、想像もつかないではないですか。