米国の金融業界では既存のビジネスを維持していくためのIT投資をRTB(Run the bank)、ビジネスを変革していくIT投資をCTB(Change the bank)、と区別し、別々に予算管理をするのが一般的です。RTBとCTBの割合はCEO(最高経営責任者)の事業戦略で決まります。もちろんCTBのウェイトが大きい金融機関の方がアグレッシブです。消極的な戦略を売り物にするCEOはいませんから、米国の金融機関はなんとかしてCTBの割合を高めようと、あの手この手を考えているのです(関連記事:抵抗勢力IT部門、生みの親は丸投げトップ)。

提供=123RF
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 一方、米国では1兆円を超える資金がFinTechベンチャーに投資されています。この投資は年間に北米の金融機関のIT投資総額の20%近くに達しています。FinTechベンチャーへの投資はCTBにもRTBにも含まれてはいません。銀行が自前の戦略のために投じるCTBとベンチャーキャピタルがFinTechベンチャーへ投じるFinTech投資。投資の負担元は違っていますが、どちらも金融ビジネスの変革のための長期投資です。そう考えると米国の金融業界では日本とは比較にならないほどの大きさの「変革のための投資」が投じられているのです。

 日本の金融業界はどうでしょうか。

 「既存プロジェクトが完了するまで、新規プロジェクトのスタートを全面的にストップする」

 ある金融機関でそんな話を耳にしました。いわばCTB禁止、全面RTBの号令です。IT業界はFinTechで大騒ぎになっているのに、金融ビジネスの将来のための中長期投資を真剣に考えているのはいったい誰なのか。

 そんなことを考えているときにシンガポール駐在の元部下からシンガポールのFinTechが盛り上がっているという話を聞きました。なんでもシンガポール通貨監督庁(MAS)が中心となってFinTechの振興策をぶち上げているとのこと。いったいどんなことを考えているのだろうか。そこでシンガポールへいってみることにしました。

 実はシンガポールへはまだコンサルタントだった1980年代から何度も訪問しています。当時の私の関心はエレクトロニクス産業にありました。特にシンガポールは米国のハードディスク装置(HDD)メーカーの生産拠点として急激な成長を果たしており、シンガポールは「ハードディスクの島」と呼ばれていました。