あるところで元政府の高官と夕食を共にする機会がありました。よい機会なので世界中の国々を巻き込んだTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の貿易交渉について尋ねてみました。ICT(情報通信技術)分野における交渉で、日本政府の注力が足りないように思っていたからです。「きっとコメの方が重要だったんじゃないの?」という回答が返ってきました。

提供:123RF
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 TPP関連のニュースでは、日本では農林水産物の関税撤廃ばかりがニュースになっていますが、米国政府の資料をみるとずいぶん様子が違います。ICT産業はアメリカにとって輸出製品の柱であり、多くの雇用を抱えています。「クラウドは米国GDPの6%で300万人を雇用している」なんて書かれた資料もありました。米国の本音は牛肉よりもクラウドのようにも見えます。

 TPP交渉では米アマゾン・ドット・コムや楽天が手掛ける電子商取引や、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)やセールスフォースのようなクラウドサービスに対して関税の完全な撤廃と、非関税障壁の撤廃を義務付けています。米国政府の資料では、日本市場のICT分野における100%の関税撤廃を、TPP交渉の最大の成果の一つとして挙げています。ICTマーケットでは牛肉や豚肉よりも一足先にグローバルマーケットが出現することになりそうです。

 なぜ米国はここまでICTに注力するのでしょうか?

 もう一つ、私の心に引っかかっていた言葉があります。米ネットスケープコミュニケーションズの創業者でWebブラウザーの開発者でもあるマーク・アンドリーセン氏が2011年にウォール・ストリート・ジャーナル紙への寄稿で述べた次の言葉です。

 要するに、ソフトウエアが世界を飲み込みつつある
 In short, Software is eating the world.

 こうした疑問に抱きつつ、米国企業のソフトウエア投資額を調べてみて、びっくりしました。日本企業と比較にならないほど多額の投資をしていたからです。