日本企業の海外におけるM&A(合併・買収)が注目されています。新たな企業買収が続々と発表される一方で、過去の買収の失敗で大きな損失を出す日本企業はかなりの数に上ります。日本企業のグローバル化という大きな課題に向けて、企業買収がひとつの手段として定着したといえると思います。

 新しいビジネスを立ち上げる際に日本企業がこれまで繰り返し挑戦してきたのは、社内人材を活用してスクラッチでスタートし、国内外で人材を採用しながら事業基盤を整えていくというやり方です。この方法が正攻法といえるのではないかと思います。

 私が事業責任者として挑戦したのは、いわゆるビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)、ユーザー企業の業務オペレーションを引き受けるビジネスです。NRIは証券や資産運用などの業務を支えるITソリューションを提供しています。ITソリューションの中でユーザーがやっている業務をNRIが引き受けるBPOは、日本でも初めての試みでした。

重要だが競争力に関係しない業務が対象

 金融業界ではアウトソーシングサービスが以前から存在しています。タイプ入力の外注は古くから行われていますし、新規口座開設などの入力事務を行う会社は日本国内のほか、中国の大連にいくつもありました。

 大連にある入力事務アウトソーシングの会社を訪問したことがあります。小学校の教室くらいの広さの部屋で大勢の担当者が作業しているのですが、日本で普通のオフィスデスク一つ分に3人くらいのオペレータが座っています。一つの教室に200人近いオペレータが作業しているわけです。

 オペレーションルームのドアを開くと「シャカシャカ」という虫がうごめくような音が聞こえてきます。大勢がキーボードを打つ音がまるで蚕が桑の葉を食べる音のように響くのです。

 大連で先行した事務アウトソーシングの会社は、日本と中国の人件費の違いだけに着目していました。だからひたすらキーボードで大量のデータを入力する単純作業を大連でやっていたのです。

 NRIはソリューションビジネスの延長線上でBPOをビジネス化することを狙っていました。しかし私たちが狙ったのは、大連で先行するBPO会社がやっているような単純事務ではありません。投資信託(投信)の基準価額算出計算はその一つです。