前回はジェフリー・ムーアのキャズム理論を紹介して、日本のITマーケットにおけるビジョナリーの役割について触れました。記事が出たところにちょうどユーザー企業の古い友人Aさんと会う機会がありました。Aさんとは数年前に一緒の仕事を通じて知り合いました。しばらくIT分野から離れていたのですが、久しぶりにIT分野にやる気満々で復帰したところでした。この記事を紹介したところ、Aさんから「本気を出します!」という力強い返事をもらいました。日本企業も負けてはいられません。ビジネスイノベーションです。

 ビジョナリーはリスクを取ってビジネスにイノベーションを起こそうとします。ビジョナリーのイノベーションが成功すると、追随する企業が現れます。するとテクノロジーは世の中へ広まり、イノベーションが世界を変えていきます。最初にスタートしたイノベーションが定着して、次々とすそ野を広げていくプロセスに入るまでの状態、それがキャズムです。

 テクノロジーがキャズムを超えていないとき、普通の企業つまり実利主義者や保守派の人達は、そのテクノロジーはとっつきにくいものだしあえて投資をしてまで手を出す必要性を感じません。しかしビジョナリーはこの段階でテクノロジーに魅力を感じます。「これがあれば現状を変えられるかもしれない」と思うからです。ビジョナリーは他社が採用したテクノロジーなどに目もくれません。誰もやっていないこと、誰も試したことのないテクノロジーに勝負をかけるのです。

(提供=123RF)
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 今、多くのテクノロジーがまさにこんな状態にあります。例えばブロックチェーンや仮想通貨、ロボットによる資産運用を目指したロボアドバイザーなどのFinTechソリューションはどれをとってもキャズムを乗り越えるための試練の真っただ中にあります。

 FinTechなどと十把一からげの名前を付けられているのがその証拠です。サーバメーカーが競って製品化しているハイパーコンバージドインフラ(HCI)も、ネットワークを仮想化するSDNもみなキャズムを乗り越えようとして苦労しています。ITがこの世に出現してからこれまで、全ての製品、技術はキャズムにぶつかり、ビジョナリーと一緒になってそれを乗り越えてきたのです。