数年前のある日のこと、重要顧客の最高情報責任者(CIO)から呼び出しを受けました。深刻な顔で打ち明けられたのはこんな相談でした。

「実はかなり困った案件がある。A社にお願いしている新規ビジネスのためのシステム開発プロジェクトだ。難航している。昨年リリースの予定だったが1年延期した。そろそろも延長した1年も過ぎるが未だにリリースのめどすら立ってない」

提供=123RF
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 それは大変です。CIOによるとこのシステム開発の当初予算は30億円。1年半かけて導入/稼働の計画だったとか。しかし計画を1年遅らせてもまだ総合テストすら始まってない状態でした。

 予算とスケジュールから要員計画はおおむね想像できます。ピーク時で月間2億~3億円、人員に直すと200~300名体制で開発/導入する計画だったはずです。12カ月の開発延長期間はピーク時の半分の人員で進めたとしてもざっと10億円が投入されたはずです。少なくとも当初予算の30億円はとっくに使い果たしているでしょう。

 なんとか開発完了までこぎ着けたとしても、総合テスト以降の工程が待っています。少なくとも10億円以上の追加費用はかかりそうです。つまりこのプロジェクトは相当楽観的に見積もっても当初予算の2倍、期間も2倍かかる見通しだということです。

 ビジネスへの影響は甚大です。まず、新規ビジネスの開始が1年以上遅れます。開発費が2倍になれば当初計画で年間5億円だった減価償却費が2倍の10億円に膨れ上がり、新規ビジネスのの原価を押し上げます。新しいビジネスで年間10億円の営業利益を確保するのが難しいのは言わずもがなです。