先日、SoR(Systems of Record)とSoE(Systems of Engagement)の発案者として紹介したジェフリー・ムーアは1991年に「Crossing the Chasm」という本を書きました。この本はその後、ハイテク製品のマーケティングに関して多くのIT企業に絶大な影響を及ぼす結果となりました。その後30年近くが経過し、初版から2度改訂されましたが、イノベーションを巻き起こして技術で次世代を制覇していくハイテク業界のマーケティング理論としてちっとも古くはなっていません(「キャズム Ver.2 増補改訂版」ジェフリー・ムーア著、川又政治訳 翔泳社)。

 これまで私も革新的な技術を取り込んで、システムやビジネスがガラッと不連続に変化してしまうような経験を何度かしてきました。その都度、自己流で考えながら工夫してきたことがこの本を読むとしっかり整理されて書かれています。もっと早く読んでおけば苦労は少なかったかもしれません。

(提供=123RF)
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 著者の主張はハイテク製品が誕生してから成長し、やがて世の中を変革するような大きなうねりを作るようになるまでに何段階かのステップがあるということです。「キャズム」というのは深い溝というような意味ですが、ベンチャー企業や大企業のプロジェクトとしてスタートしたハイテクビジネスが成長過程に入るまでにどうしても越えなければならないのがキャズムです。

 初期市場ではうまくいったベンチャーも、キャズムを乗り越えることに失敗すると倒産したり、買収されたりして成功には至りません。Googleもアマゾンも大きな成功を収めたハイテク企業はいずれもキャズムを乗り越えて今の隆盛を手にしたのです。

 キャズム理論で大変興味深いのは、キャズムの前と後でターゲットとなる顧客の性格やビジネスモデル、そしてマーケティングのやり方ががらりと変化すると指摘していることです。