世界のIT業界を席巻する「エコシステム」。前回「どうして日本人は『エコシステム』が苦手なのか」で説明したように、横のつながりを活用し、利害関係を越えて柔軟に手を組む米国流のビジネス文化が、米国のエコシステム隆盛の背景にあると私は考えています。

 横のつながりであるエコシステムに対して、日本は縦のつながり、ケーレツです。だから日本人はエコシステムが苦手だという結論になります。しかしとある友人は私の「仮説」に異を唱えます。

 「楠さん、日本だって昔はエコシステムがありましたよ。日本の農村はエコシステムで灌漑(かんがい)や農地整備をやってきたんですよ」

 彼によると、かつては日本の地主が、地域経済のエコシステムの要だったそうです。

 治水・灌漑事業を行い、耕作可能地を作る。それを小作に貸し出して耕作を委託して農作物を生産してもらう。出来た農作物を売りさばく商人を呼び込んで商業地を形成していく。そうして生まれた富を再びインフラ整備に投資する――。地主はそのようにエコシステムの中心になって地域経済を整備してきたと言うのです。

 治水・灌漑事業だけでなく、近代に入ってからは電力供給や鉄道なども地主が中心になって整備してきました。

 彼のおばあさんの実家はいくつかの地主と共同で電気を引いて、地域の基盤を整備したそうです。政府でも地方自治体でも電力会社でもなく、地主がリーダーシップをとって地域経済を創り上げていった歴史があるのだとか。