まだ30代のコンサルタントだったころのある晩、私は神楽坂の高級料亭でクライアント企業の幹部から接待を受けていました。その2年前にコンサルティングした案件が成功裏に終わり、クライアントが実質的に300億円以上の利益を得たお礼でした。

「楠さん、今晩はいくらでも飲んでください」
「300億円も飲めませんよ」

といった私は有頂天になっていたかもしれません。実はこれが私にとって最後のコンサルティングの仕事になりました。

 その仕事は、クライアントの米国現地法人の調査でした。現地法人は二つあり、それぞれ別の電子部品を製造していましたが、赤字が続いていました。しかし、クライアントの事業を技術面で長年支えてきた技術部門トップの“実力派”専務の肝入りだったこともあり、事務系の本社スタッフが2社の事業に口出しするのは難しい状況でした。

 そんな状況で私が当時の社長室長に呼ばれ、極秘の任務がスタートしました。
「現地法人2社をどうするべきか、第三者としての意見を出してほしい。前提はない」
 これが社長室長から私がいただいたミッションでした。

 私は現地法人2社の内部資料を受け取ってがくぜんとしました。2社の累積債務が合計で200億円近くに達していたからです。当時は連結会計の導入前。クライアントは上場企業でしたが単独会計しかディスクローズしていません。つまり海外現地法人の累積債務は簿外債務でした。クライアントの当時の経常利益は年間150億円。もし仮にこの2社を今解散したら、累積損失が本社の決算に反映されて、経常利益の1年分以上が吹き飛びます。