今から30年ほど前。鎌倉で研究員生活がスタートしたころのことです。シンクタンクの研究員といっても入社前の想像と現実は全く違って苦労の連続でした。寝る間を惜しんで書いた報告書なのに、お客さんからケチョンケチョンに叱られたり、「書いてあることが理解できない」と真顔で言われたり…。

 そんな悪戦苦闘の日々を過ごしているころ、尊敬する先輩にこんなことを言われました。

「楠くん、我々シンクタンクもサービス業だよね。サービス業の定義って一体何だと思う?」

 当時の私はそんなことを考えたこともありませんでした。シンクタンクがサービス業かどうかなんて、今の自分の仕事に一体何の関係があるのかと内心ムッとする私に先輩は構わずに続けました。

「ぼくの定義は『仕事を断れるかどうか』だね。『ゴルゴ13』を知っているよね。彼は引き受けた仕事は絶対にやりとげる。でも嫌な仕事はやらない。あれがサービス業だよ。やる価値のある仕事を選んでやるからこそ、モチベーションがあがるし、仕事を通じて成長していける。どうしても嫌な仕事が断れないのはサービス業じゃない」

 このやり取りは私が自分の仕事について考えるきっかけとなりました。嫌な仕事やつらい仕事に直面したとき、「これは自分がするべき仕事なのか。引き受ける理由はどこにあるか」。そう今でも自問自答しています。