朝のテレビ番組で「シュリンクフレーション」という言葉を聞きました。初めて聞いた言葉でしたが、インフレーションやスタグフレーションのように経済学者のつくった造語で、色々な商品で価格やパッケージが変らないまま、サイズや内容量だけがシュリンク(縮小)している状態のことを言うようです。

 日本市場に特有の現象だと言う人もいます。日本ではもう何十年も「価格据え置き」が常識です。大手の製造業は下請け企業へ毎年値下げ要求をして、コストダウンを徹底しています。消費者だってそうです。値上げしようものなら、多くの消費者から批判のターゲットにされてしまいます。うまく値上げができたのは、あまりの仕事量に消費者からも同情が集まった宅配業界くらいなものです。

 他人ごとではありません。私たちのIT業界はまさにシュリンクフレーションの状態です。価格据え置きが当たり前、マーケットは毎年どんどんシュリンクしています。

 「今回のプロジェクトでこの金額を投資しても、トータルの維持コストは現在よりも10%下げることができます」

 こんなセールストークがIT業界では長らく営業の決まり文句です。またシステム部門が経営を説得するためのストーリーも「維持コストの削減」が常道です。「コストが下がるのなら、まあよいか」と経営者は考えます。ITを活用して付加価値を何とかしてアップさせようという意識はどこかへ行ってしまいました。

 システム開発を請け負うITベンダーは人件費単価を顧客と交渉しますが、ここでも「価格据え置き」は当たり前。「景気が良くなったから値上げを認める」なんて話は聞いたこともありません。「人件費単価は度外視で」という話は、失敗プロジェクトでいつも耳にします。大きな失敗プロジェクトがあり、猫の手も借りたいという状態になると、IT業界がいつも活況を呈するのは皮肉なことです。