米国の有力ソフトウエア企業で、品質管理の話を聞いてきました。相手は品質管理部門の女性ヘッドで、何十億ドルもの売上をあげる製品開発部門全体のトップにダイレクトにレポートする人物です。彼女は穏やかな物腰で、その会社の品質管理のプロセスを説明してくれました。

 同社で開発を担当するエンジニアは、コーディングを始める前に必ずコーディングスタンダードという分厚いマニュアルを読破する必要があります。この会社の開発エンジニアのバイブルです。コーディングスタンダードは開発部隊でも最も優れたエンジニアを集めた開発アーキテクト部隊が管理しています。全てのエンジニアはこれに従わなければならないと決まっています。

 開発されたコードは個々に自動テストにかけられます。コーディングスタンダードに違反したコードはこの段階でリジェクトされてしまいます。テストを行うのは彼女の配下の品質管理部門。つまりコードはリリースの前に開発部隊の手を離れるわけです。テストケースももちろん品質管理部門が管理しているそうです。

 そう説明を受け、この会社では開発部門と品質管理部門の力関係はどうなっているのだろう?と私は疑問が沸いてきました。普通なら開発部門の方がパワーを持っているはずです。そこで聞いてみました。

―― もし開発部門と意見が対立した時にはどうなるのですか。仮に品質管理部門がノーと言ったら、リリースは絶対にできない仕組みがあるのですか?

 「開発部門の主張が強いのはどこの会社でもそうだと思います。品質管理部門は縁の下の力持ちという存在です。私たちが品質に不安を感じていても、開発部門がリリースを押し通そうとする場面もよくあります」