2016年12月14日、シリコンバレーのコンピュータ歴史博物館で「Inclusion in Silicon Valley」という会議が開催された(写真1)。シリコンバレーの多様性(ダイバーシティー)を議論しようという目的だ。主催したのは、雑誌「The Atlantic」である。

写真1●「Inclusion in Silicon Valley」の会場
写真1●「Inclusion in Silicon Valley」の会場
撮影:瀧口範子
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 「Inclusion(インクルージョン)」は、最近よく耳にする言葉だ。「受容」とか「受け入れる」という意味で、自分と異なった人間を排除せずに同じコミュニティーに迎え入れようというニュアンスだ。ダイバーシティーはやや抽象的で「状態」を示すのに対して、インクルージョンは「行動」や個人的な「心情」を反映する言葉だという違いがある。もっと積極的に、という訴えが背後に感じられる。

 インクルージョンはトランプが大統領選で勝ったときから、より多くの人々が使い出したようにも思われる。大学や地方行政が、「我々はインクルーシブな組織です」とアピールするようになっているからだ。トランプ次期大統領は移民排斥を公言してきたのだが、それに反旗を翻す立場を表明するものでもある。

 今回の会議は大きく2部に分かれていた。第1部はシリコンバレー企業の「受容度」について。つまり、人種的に多様な人々を雇っているか、男女差別を防ぐ方策を講じているか、といった内容だ。第2部は、シリコンバレーのとんでもない地価高騰によって、この地に住めなくなりつつある普通の人々の話だ。いずれもシリコンバレーの大きな課題である。

白人的が圧倒的に多いシリコンバレー企業

 第1部で明らかになったのは、シリコンバレーが依然として白人中心の町だということだ。米Intel、米Facebook、米Paypal、米Google、米Apple、米Microsoftなどで、アフリカ系、ヒスパニック系、アジア系、白人がそれぞれ社員の何パーセントを占めるのかという数字が共有された。

 それによると、例外的なのがPaypalで、アフリカ系2%、ヒスパニック3%、アジア系56%、白人38%となっている。白人が最多数でないのだ。ところが、残りの会社では全て白人が48~57%を占め、アジア系が多くても27~46%、アフリカ系やヒスパニック系にいたってはほとんど数パーセントという程度でしかない。

 シリコンバレーにいると、確かにアフリカ系のテクノロジー企業社員にはあまり会わない。だが、インド系、アジア系の人々が多いと感じていた。しかし、実は白人の比率の方が高かった。長年シリコンバレーに住んではいるが、ここまで差があるのかと驚くばかりだ。多様性が浸透していると思っていたシリコンバレーの実態は、全くそうでなかったのだ。

 もう一つ興味深いパネルディスカッションがあった。ベンチャーキャピタリストらが登壇し、ベンチャーキャピタルによるスタートアップへの投資がどれだけ「自己強化的」になっているかという話題になった。

 つまり、ベンチャーキャピタリストは白人男性が主流であり、とかく自分たちと同じような人間をサポートする傾向がある。また家族や友人などの閉じられた世界の中から成功実績のある人間を探して、繰り返し投資する傾向がある。目的が金儲けである限り、最も手堅い方法で投資しようとすると、どうしてもその傾向から抜けられないという話だ。

 シリコンバレーは遠くインドのムンバイからエンジニアを雇うことにちゅうちょしない一方で、サンフランシスコ湾の対岸にありアフリカ系住民が多いオークランド市からは人を雇わないという指摘もあった。さらに、アフリカ系やヒスパニック系で大学の工学部を卒業する学生はいるものの、彼らは政府関係組織へ就職する傾向があるという。テクノロジー企業のリクルートに何らかの問題があるのでは、という問題提起だ。