自動走行車は世界で話題になっているが、「自走技術」を使ったロボットは、路上以外の様々な場所で既に利用されている。2016年9月にシリコンバレーで開催された「RoboBusiness 2016」では、病院や工場、倉庫で活躍する自走ロボットの姿があった。

病院内搬送ロボのAethon

 米ピッツバーグに本拠を置くAethonは、病院内の搬送ロボットで有名だ。同社のロボットは、シーツや食事、薬品、生体検査用のサンプル、ゴミなどを運ぶ。シリコンバレーにあるエル・カミーノ病院に実際の導入風景を見学に行ったことがあるが、患者用とは別に設けられた通路内を、看護士らに混じって同社ロボットが自走していた。ロボットは、荷物ごとに異なったカートを牽き、エレベーターにも乗降して目的地へ向かうという優れものだ。

 Aethonは今、市場を病院から工場へ広げようとしている。RoboBusiness 2016でも、ロボットに機械部品などを入れたカートが装着されていた。つまり、自走搬送ロボットは、一つの市場だけでなく、同じ技術を使って別の市場でも利用を広げられるということだ。別の市場へ進出する際は、利用ケースを詳細にわたって検討するというマーケティングや、その業界に合ったバックエンドのシステムづくりが重要になる。その意味では、自走ロボットは倉庫や工場、病院に限らず、もっと別の市場へ拡大していく可能性を秘めているのだ。

倉庫用搬送ロボのFetch Robotics

 2015年にソフトバンクが2000万ドルを出資して話題になった米Fetch Roboticsというシリコンバレーのスタートアップが開発した「Freight」は、倉庫内で作業員がピッキングした商品を発送作業場まで運ぶ。作業員がいくつもの棚を巡回しても、それをずっと追従するので、作業員は重い荷物を抱えたりカートを押したりする必要がなくなる。

 何よりも、作業員が手元のタブレットで指示すれば、ロボットが発送作業場へ自動的に向かってくれるのが便利だ。その間、倉庫作業員はさらに別のピッキング作業を続けられるので、効率がアップする。

倉庫用搬送ロボのLocus Robotics

 倉庫ロボットでは、米ボストンにあるLocus Roboticsも注目されている。同社のロボットの場合は、作業員よりも先に目的の棚付近に到着し、搭載する画面上にピッキングすべき商品を表示する仕組みである。ロボットが次にピッキングする商品を教えてくれるので、作業員はロボットが待機している場所へ行きさえすればいい。同じ倉庫用ロボットでも、作業のプロセスをどう考えるかによって、ロボットと人間の役割分担が微妙に異なっているのは興味深いことだ。

搬送ロボのプラットフォーム化が進む

 今、この手の搬送ロボットはロボット業界では「プラットフォーム」と呼ばれている。スマートフォンなど他分野のプラットフォームと同様、この搬送ロボットを土台(プラットフォーム)として、様々な機能性を付加できるということだ。

 実際、上に挙げたFetch Roboticsは他社と共同開発して在庫を確認するようなシステムを搭載したロボットを展示していた(写真)。また、搬送ロボットの上にロボット・アームを付けた製品も他社から出ている。搬送ロボットを何台もつなげて、ベルトコンベヤのようにして利用する方法も提案されている。

写真●上部に在庫管理システムを搭載した米Fetch Roboticsの自走ロボット
写真●上部に在庫管理システムを搭載した米Fetch Roboticsの自走ロボット
(撮影:瀧口 範子)
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 自走技術は、自動走行車だけでなく、今後我々の生活のいろいろな場所に出現するのである。

瀧口 範子(たきぐち のりこ)
フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、建築・デザイン、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』(共にTOTO出版)、訳書に『ソフトウェアの達人たち: 認知科学からのアプローチ(テリー・ウィノグラード編著/Bringing Design to Software)』(ピアソンエデュケーション刊)、『ピーター・ライス自伝』(鹿島出版会・共訳))がある。上智大学外国学部ドイツ語学科卒業。1996-98 年にフルブライト奨学生として(ジャーナリスト・プログラム)、スタンフォード大学工学部コンピュータ・サイエンス学科にて客員研究員。