先だって、新しいタイプのニュースメディアの共同創設者に会う機会があった。「The Conversation」という名前のサイトで、執筆者が全て大学教授などのアカデミック関係者である点が特徴だ。オーストラリアで2011年に創設された。

 The Conversationが作られた背景には、昨今のあふれ返るメディアサイトへの危惧があったようだ。日本でもそうだが、「ニュースのようなもの」を伝えるサイトが世界的に急増しているが、その質は全てが充実しているとはいいがたい。同じコンテンツが大同小異にいろいろなサイトで取り上げられ、ただ話題を増幅させているだけの状況があるのは否めないだろう。

 そうした実態を受けて、もっと専門家の目から見た深みと洞察のあるコンテンツを伝えようというのが、The Conversationの意図だ。執筆者をアカデミック関係者、つまり学者や研究者に限っている理由は、その道でずっと研究を続けてきた彼らの意見は、ちょっとWebサーチをしたりコメントを取ったりして書かれたジャーナリストの記事にはない専門性が期待できるから、だという。

 そう聞くと、身につまされるところがあるのは確かである。締め切りのある中で速報しようとするジャーナリストができることは、実際に現場に居合わせることとか、アクセスしにくい人物のコメントを取ることとか、専門家の意見を取り入れたりして記事を書くことだ。もちろん、本人のこれまでの知識や体験がそのアプローチや内容を左右するわけだが、何年も何十年も同じ道で研究を続けてきた学者には知識や洞察の面でかなわない。

学者の書く文章を分かりやすく編集、タイムリーに発信

 一方、アカデミックの世界は、これまで一般人に理解されにくいという欠点もあった。分かりにくい専門用語が使われ、ひどくニッチな研究分野に特化しているアカデミック関係者の論文の多くは、一般人にとって理解不能だ。The Conversationはその点を改良するために専属の編集者を雇い、学者の書く文章が一般人にも理解しやすくなるように大きく手を入れている。

 もう一つ、The Conversationがやっているのはスピード化だ。これまでアカデミックな世界では、スピードは無関係だった。だが、タイムリーな事件や事象について伝えるためには、豊富な知識をその時点に合わせて出していかなければならない。その点でも、The Conversationのようなメディアがあってこそ、アカデミックの資産が一般人にとっても有用になるというわけだ。