注目を浴びていた起業家が足を踏み外す。シリコンバレーでは時折そうしたことが起きる。その最新例がアンソニー・レバンドウスキー氏だろう。米Alphabet傘下のWaymoが米Uber Technologiesを自動運転技術の機密盗用で提訴した事件のカギを握る人物で、2017年5月30日にUberから解雇された。

 WaymoがUberを訴えたのは2017年2月のこと。2016年1月にGoogleを退社したレバンドウスキー氏が起業し、その後にUberが買収した自動運転トラック技術のスタートアップ米Ottoによって、Waymoの企業秘密が盗まれたという主張だった。

写真●米Uber Technologiesが公表していたOttoのメンバー写真
写真●米Uber Technologiesが公表していたOttoのメンバー写真
出典:米Uber Technologies
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 レバンドウスキー氏は学生時代から自動運転技術の研究に携わってきたスターエンジニアとして世界中から尊敬を集めていたにも関わらず、今やLiDAR(自動運転に使用するレーザーセンサー)の開発に参加することを一切禁じる命令を裁判所から受け、裁判の結果によっては刑事責任も問われるのではないかという状況だ。

裁判に必要な証拠を提出せずUberを解雇

 Uberがレバンドウスキー氏を解雇したのは、同氏に書類を提出するよう社内で設けた締め切りまでにそれが守られなかったことが理由だ。その書類とは、レバンドウスキー氏がGoogle在籍時代に持ち出したとされる1万4000件のドキュメントで、今回の訴訟の行方を左右する証拠ともなるものだ。

 Uberは同氏を雇い入れる際に、元の雇用主の社内機密を持ち込まないことを雇用契約で定めていた。書類が提出されなければ、社内の調査が阻まれることになる。しかしレバンドウスキー氏は訴訟を起こされて以来、米国憲法の修正第5条(黙秘権)を行使している状態だ。

 この書類は、そもそもサンフランシスコ地方裁判所がUberに提出を求めているものである。Waymoの訴訟では、Uberがレバンドウスキー氏の盗用を知っていたか、あるいはそれに共謀していたかが焦点になる。

 レバンドウスキー氏のこれまでの経歴には、自動運転技術の専門知識を盾に自らを優位な位置に進めてきたようなところがある。

DARPAの自動運転「グランドチャレンジ」で頭角を現す

 今年37歳の同氏は、もともとベルギー出身。14歳の時にアメリカに渡り、高校生時代からテクノロジーに親しむだけでなく、ビジネスセンスにも長けていた。最初の起業は16歳の時で、Webサイト構築を請け負う会社を作った。これで家が買えるほど金儲けをしたのだという。

 大学はカリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)へ進み、インダストリアルエンジニアリングとオペレーションズリサーチを専攻した。学部・大学院の在学中を通して、学業と並行してビジネスを営んでいた。建設産業向けに図面を共有するシステム構築の会社を共同創設したのだ。

 その後、自動運転技術を競うDARPA(国防高等研究計画局)の「グランドチャレンジ」に、参加グループでは唯一となる二輪車を開発して参加。同氏が中心となったUCバークレーのチームは、2004年、2005年と連続して参加し、自動運転技術のコミュニティーではよく知られる存在となった。

Googleで働きながら起業、その会社をGoogleに売却

 UCバークレー卒業後はGoogle(当時)に就職。これまたGoogleで働きながら、少なくとも3社を起業する。