しばらく忘れていた名前が、また最近世間を騒がせている。指先から採取した数滴の血液で検査ができるとうたった技術がイカサマであると判明し、評判が地に落ちた米セラノス(Theranos)だ。いまだに生き残っているしぶとさが驚きを集めている。

写真●シリコンバレーにある米セラノスの本社
写真●シリコンバレーにある米セラノスの本社
撮影:中田 敦
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 セラノスはわずか数滴の血液でこれまで同様の検査ができるテクノロジーを開発したとして注目を浴び、推定企業評価額は一時90億ドルにも上った。創業は2004年。スタンフォード大学を中退した若い創業者のエリザベス・ホームズは、「女性版スティーブ・ジョブズ」と呼ばれるほどだったが、そのテクノロジーがイカサマだとされて、2016年夏に医療保険当局によって臨床検査の免許を取り消された。

医療保健当局と和解にこぎ着ける

 最近同社が取り沙汰されているのは、医療保険当局との和解にこぎ着けたからだ。さらに何と言っても驚きなのは、同社がまだ生き残っていたことと、ビジネスモデルを変えてこれから蘇ろうとしていることである。

 先ごろ同社が和解した相手は、連邦機関のメディケア&メディケイド・サービスセンター(CMS)。臨床検査ラボの運営には、CMSの認可が必要だった。今回の和解でセラノスは、罰金の減額を受けるのと引き換えに、2年間にわたるラボ運営の停止を受け入れることになった。CMSはセラノスに対して規制違反を訴えていたのだが、同社はそこから自由になったわけだ。

 セラノスは一時、大手ドラッグストア・チェーンの「ウォルグリーンズ(Walgreens)」を顧客として、全米数十カ所に血液検査の窓口を開設していたが、その提携は既に解消されている。セラノス社自身の3カ所のラボも閉鎖され、社員も大幅にレイオフした。

 しかし先だって明らかになったのは、自社で検査ラボを運営するのではなく、小型検査機器「ミニラボ」を医師や病院に売るという、同社の新しいビジネスモデルである。そのたくましさに、誰もが不意を突かれているところだろう。

 同社はCMSとの和解でトラブルからすっかり解放されたわけではない。ウォルグリーンズを始め、同社に投資した投資会社からの訴訟や、犯罪捜査、民事調査は免れない。

 そうした中で、ホームズCEO(最高経営責任者)は自分が保有する同社株を一部投資家に譲って、訴訟をくい止めようとしたといった噂が面白おかしく伝えられている。同社は、シリコンバレーの輝かしいスタートアップの凋落のストーリーとして格好の主役になっているのだ。

 セラノスの偽りの栄光と転落には、多くの教訓が込められている。