シリコンバレーでは自動運転車の開発が盛んだが、目に見えないところで自走して役に立っている技術が既にある。屋内で活動する搬送ロボットだ。筆者が最近ことに感心したのは、病院内でシーツや食事を運ぶロボットだ。

 病院内で使用する搬送ロボットを開発したのは米Aethon(エーソン)というペンシルバニア州ピッツバーグにある会社で、同社のロボットはシリコンバレー地域でも数カ所の病院が導入済みだ。ロボットの名前は「Tug(タグ)」と呼ぶ。

 Tugは本体の背後にカートを取り付けてけん引する仕組みで(写真)、運ぶものによってカートを入れ替える。食事の場合は棚がたくさんついて扉のあるカートを、シーツの場合は大きなバスケットのようなカート、薬品ならばパスワードで開く引き出し付きのカートなどを使う。ゴミ箱や検査のための標本、手術用具などを運ぶカートもある。

写真●UCSF医療センターで稼働する「Tug」
写真●UCSF医療センターで稼働する「Tug」
撮影:瀧口 範子
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 カートをけん引するロボット部分の機能は同じで、行き先を入力するとTugはドアがあれば自動的に開け、通行人にぶつからないよう脇に避けたり一時停止したりしながら通路を進み、エレベーターにも自動的に乗降して目的地へ向かう。エレベーターは空いていなければ乗り込まないなど、礼儀正しさも兼ねそろえている。

 カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の付属医療センターでは、30台近いTugが稼働中で、病院内の業務用通路を歩いていると、必ずTugが走行しているのに遭遇するほどだ。日中は入院患者の食事を運んでいたTugが、夜間にはシーツの運搬に切り替わるなど、充電時間以外はほとんど休むことなく動いているようだ。

 もちろん、荷物を運んでくれるこうしたロボットの導入で人間の職員の仕事が楽になるのは当然だろうが、それ以外に「ああ、こういうことも可能になるのか」と感心し、納得したことが二つある。

 一つはUCSF医療センターの場合、入院患者が自分の好きな時間に食事を注文できることである。まるでホテルのように、だ。