とうとうドナルド・トランプ氏が第45代アメリカ合衆国大統領に就任した。トランプ政権は「リアリティーTV政権」と呼ばれているが、現実のようでありながら現実とは信じがたいものが目前に展開される、妙な感覚を味わっている。

 政権初日から明らかになったのは、トランプ政権とメディアの緊張関係である。嘘を突き通そうとする政権をメディアが批判するが、そのメディアをトランプ大統領がまた「嘘つき」呼ばわりする。トランプ政権とメディアの応酬が、雪だるま式に巨大に膨らんでいく様子がこれからさらに見られるだろう。

 選挙期間中は、メディアが図らずもトランプ候補を宣伝する役割を果たしてしまったことが多々あった。当初は、メディアでのアピールに長けた同氏を面白おかしく報道していたことが、トランプ候補の露出度を否応にも上げた。まさかこんな人物が大統領になることはないだろうという一種の安心感のようなものが、そうした不用意な報道の背後にあっただろう。一方、その間ヒラリー・クリントン候補が同等の扱いを受けることはほとんどなかった。

 それに気がついた後も、失敗はあった。リアルタイムではなかなか気がつきにくいことだが、トランプ候補のツイートをリツイートしたり、報道したりすることがそれにあたる。

 メディアがトランプ候補のツイートを「とんでもない発言だ」という意図を込めて報じても、多くの大衆にとってはその言葉を目にするだけに終わる。あるいは、報道の真の内容を読まずにタイトルだけを理解する。かくして、人々がトランプ候補の言葉や発言をオウム返しにして、それをどんどん広める役割を担ってしまったわけだ。その仲介をしたのは、他でもないメディアだ。

報道官が記者会見で「嘘」

 政権のスタート後も、メディアは一筋縄ではいかない相手に混乱させられている。例えば就任式翌日、1月21日の初めての記者会見では、ホワイトハウス報道官のショーン・スパイサー氏が「就任式には歴史上最大の観客が集まった」などと真実でない数字を並べ立てた上、記者らが質問もできないうちに会見を打ち切った。

 さらにその翌日、22日の朝のテレビ番組では、女性大統領顧問のケリーアン・コンウェイ氏が、ニュースキャスターの質問にまともに答えずにがなり立てるばかり。ついには、「Alternative Facts(別の真実)」という言葉まで編み出した。前日のホワイトハウス報道官は、真実は真実でも「別の真実」を指していた、とその正当性を主張したのだ。