米Adobe Systemsが2016年11月に発表したAI(人工知能)の「Adobe Sensei」は、めんどうな繰り返し作業を省略して、クリエイターが本来の仕事に集中できるようサポートしてくれる。

 Senseiはもちろん、日本語の「先生」の意味。同社のクラウドサービスである「Creative Cloud」や「Marketing Cloud」、「Document Cloud」で、このAIが利用できる。同社のエグゼクティブ・バイスプレジデント兼CTO(最高技術責任者)のAbhay Parasnis氏への取材を元に、Adobe Senseiを解説しよう。

 まずAdobe Senseiで何ができるのか、いくつか例を挙げよう。結構驚くようなことが可能だ(写真1)。例えば2016年11月に開催した「Adobe MAX 2016」で披露されたデモでは、Adobe Senseiは声優の発言に同期させて、アニメキャラクターの口元を動かしてみせた

写真1●「Adobe MAX 2016」で披露したAdobe Senseiの機能
写真1●「Adobe MAX 2016」で披露したAdobe Senseiの機能
撮影:瀧口範子
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 実用的な機能もある。「Photoshop」であれば風景写真の中から空にかかった木をカットするような場合。Adobe Senseiは木を取り除くことで生まれた空白を自動的に埋めてくれるのだが、その際に空に浮かぶ雲のパターンが不自然にならないように計算し、空が連続的に見えるようにしてくれる。

 クリエイターが必要とする理想的な夕焼け空の画像が見当たらない場合、クリエイターが手持ちの写真から複数の画像を選んで組み合わせ、求める空の色彩をパッチワークすると、Adobe Senseiが「Adobe Stock」の中から、クリエーターの望みに近い画像を探し出してくれる。

Adobe Senseiはニュアンスも見分ける

 ポートレート写真に関する機能も役に立ちそうだ。顔写真を撮ってみたものの緊張した表情になってしまった場合、Adobe Senseiがそれを自然な笑顔に変えてくれる。AdobeのParasnis氏(写真2)によると、「Adobe Senseiは人種的な顔や表情の違いといったニュアンスも見分け、その人にとって自然な表情になるように仕上げられる」のだそうだ。つまり、アルゴリズムは白人男性とアジア系女性の顔のつくりや表情の違いまで知っていて、それぞれの人種にふさわしい表情にするのである。

写真2●米Adobe Systemsのエグゼクティブ・バイスプレジデント兼CTO(最高技術責任者)、Abhay Parasnis氏
写真2●米Adobe Systemsのエグゼクティブ・バイスプレジデント兼CTO(最高技術責任者)、Abhay Parasnis氏
出典:米Adobe Systems
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 Marketing Cloudでは、Adobe Senseiは今年のショッピングの流行や消費者がどのくらいのお金を費やすかといったことが予測できるという。またDocument Cloudでは、Adobe Senseiは同じような内容のドキュメントを自社のレポジトリーから自動的に探し出してくれる。後者の場合は、単にドキュメントのサイズや名前だけではなく、その内容を理解した上で検索する。