連載のタイトルである「科学と感性のBtoBマーケティング」。この言葉は、私のライフワークであるBtoBマーケティングを表現する時によく使う言葉です。

 「科学:science」はデータマネジメントであり、コミュニケーションの設計と分析であり、データベースやインターネットなどのテクノロジーであり、その背景にある統計学、論理学、行動心理学、戦略論、マーケティングなどの学問体系です。

 「感性:emotion」は、コピーライティングや各種のデザイン、テレマーケティングのスクリプトなど、表現を司るクリエイティブな世界です。私は、この2つがこれほど高いレベルでバランスすることを求められる仕事をほかに知りません。そしてこの事が「BtoBマーケティングは難しい」と言われる理由でもあります。

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 また、ターゲット市場の選定から、見込み客リストの収集・整理、啓蒙、絞り込み、訪問、案件化、サンプル提出、価格交渉、そして受注と、非常に長いサプライチェーンの上に多くの要素が複雑に絡み合って構成されているがゆえに、担当者が学ばなければならないことも多岐にわたるのです。

 BtoBマーケティングの難しさを説明するのに、亡きスティーブ・ジョブズ氏の言葉を借りると良いかも知れません。Appleを創業し、倒産まであと90日という崖っぷちでCEOに復帰、それからたった10年で時価総額世界一の企業に急成長させ、経営者としてもマーケターとしても天才の名を欲しいままにしたジョブズ氏は生前、All Things Digitalが主催したD8カンファレンスで以下のように言いました。

 「僕はコンシューマ(消費者)市場(BtoC)をずっと愛してきたし、そこで戦ってきた。そこは素晴らしい製品を作れば多くの人が買ってくれるシンプルな市場だ。もし人々が製品に魅力を感じないなら、翌日からすぐに改良に取り掛かることが出来る。イエスかノーのとてもシンプルな世界なんだ。でも大企業向けのビジネス市場(BtoB)は違う。多くの場合、会社で製品を使っている人は自分でそれを選んでいないし、選ぶ基準もあいまいで混乱しているようにさえ見える、だから僕はビジネス市場が嫌いなんだ」