今回は、BABOK Guide V3の「戦略アナリシス」という知識エリアについて解説する。従来のV2では「エンタープライズアナリシス」という名称だったが、名称が変わっただけでなく、それ以上に内容が大きく変わった。完全にリニューアルされた知識エリアだ。

 戦略アナリシスでは、現状から将来の望ましい状態まで、エンタープライズにおけるトランスフォーメーション(変容)を可能にする「チェンジ」に関する戦略を定義する。この知識エリアのタスクは、エンタープライズ内の任意のレベルにおける、任意のタイプのチェンジを扱うようになった。

 V2では単一のビジネスニーズに焦点が当てられていて、ちょうどPMBOKが単一のプロジェクトを対象としているのと同じように単一のイニシアチブ(目的と目標を定義して取り組む作業で、プロジェクトの前後の活動を含む)を対象としていた。それがV3ではエンタープライズ全体にまで拡張された。

 ただし、決してエンタープライズ全体のコンテキストのみを扱うわけではない。意外と重要なのは、小さな変化や変更である。

 BABOKではチェンジの対象として、小さな変更/改善も認めている。日本で得意とする改善活動も当然その対象だが、それだけを意味するのではない。大きなイノベーションも最初は小さな変化・変更から始まることが多い。やってみなければ分からないことが多いからだ。

 「リーンスタートアップ」などがその例である。実験からスタートし、概念を実証し、プロトタイプをユーザーに評価してもらいながら追加のニーズを探り出す。それを繰り返しながら徐々に完成品に仕上げていく。そのようなイノベーションも対象となる。

 そのため第2回で取り上げた「引き出しとコラボレーション」の活動と「戦略アナリシス」の活動が有機的に結合することが重要である。それが「戦略的なIT投資」につながる。そのためには、戦略をベースにした小さな変革が重要だ。

 以下、4つのタスク「現状を分析する」「将来状態を定義する」「リスクをアセスメントする」「チェンジ戦略を定義する」について概説する。