郵政省の官僚として通信・放送行政分野における自由化競争政策を推進し、1998年からはITU(国際電気通信連合)の事務総局長を務めた内海氏は、世界の視点から日本の通信を俯瞰できる数少ないキーパーソンの一人である。「VAN戦争」の当時を振り返り、国内競争に始終している日本の通信業界に改めて警鐘を鳴らす。
自身のキャリアを振り返って最も印象に残っていることは何か。
通商産業省との「VAN戦争」を経験し、中小企業VANを「通信サービス」としたことだ。現在のインターネットやクラウドプラットフォームに至るデータ通信の枠組み作りは、この中小企業VANが起点になったと言っても過言ではない。通信の定義、法制、所管などは、この中小企業VANの議論の中で決まっていった。
VANを巡る議論では、郵政省と通産省で自由競争原理の導入という点で方向性は一致していた。ただ、通信と分離した情報処理サービスとして完全自由化を目指す通産省と、データ通信として規制する郵政省が真っ向対立し、どちらが所管となるかを争った。最終的には、中小企業VANは郵政省の省令として郵政省の所管となり、「郵政省 vs. 通産省」という縄張り争いに終止符を打った。
通信サービスの根底にあるのは「人の情報を伝えることの重要性」。データ通信サービスを、単なる経済的な価値のみを求める自由競争にしてはいけない。あくまで通信事業として様々な社会的責任、義務を負いながら提供していくべきだ。一方で通産省のいう情報処理サービスは商売的な発想が強い。会社としての社会的責任は負うかもしれないが、データ通信を提供する会社がその程度の認識ではまずい。