津田氏は、エヌ・ティ・ティ移動通信網(現NTTドコモ)の立ち上げから参画し、日本の携帯電話の発展に貢献した人物。2003年には、米ビジネス誌で「世界で影響力のある20人」にも選ばれた。NTTドコモの副社長やボーダフォン日本法人(現ソフトバンクモバイル)の会長などを歴任した同氏にとって、現在の携帯電話市場はどう映っているのだろうか。
これまでを振り返って印象に残っていることは何か。
日本電信電話公社時代に偶然、移動通信に絡む機会があった。計画局と呼ぶ部署で将来15年を展望する長期計画の策定に携わり、私の担当の一つが移動通信だった。1979年12月に自動車電話サービスが始まる直前の頃だ。端末がまだ大きかったので自動車に乗せざるを得ない状況だったが、いずれは小型・軽量化が進んで人が持ち運ぶようになる。移動通信は絶対に将来性があると考えていた。
その後、1990年3月の「政府措置」で移動通信事業の分離が決まったわけだが、私から言わせれば、「NTT本体の分離分割」を阻止するために切り出せるものを見繕ってこうなった。当時は「トカゲの尻尾切り」と言われたが、実は全く違う。切り出してはいけないものを選んでしまった。
もっとも日本だけが間違ったわけではなく、個々の事情は異なるにせよ、米国や英国も移動通信事業を切り離した。だが、米国や英国は元に戻した。体よく言えば「固定と移動の融合」なのかもしれないが、結局、人が利用する限りは移動通信が「主」で、「従」に戻ることは考えられない。かといって、固定通信が淘汰されるわけではない。全体で補完しながら、高速・大容量の通信をいかに効率良く、安く実現できるかが今後のテーマになっていく。
想定外だった点はあるか。
携帯電話端末を0円で販売するようになったことだ。結果、使い捨ての文化が生まれ、端末メーカーのロイヤルティー低下を招いた。0円でなければ買わないというのは端末に魅力がない証拠。本当は高い商品にもかかわらず、一般消費者には「携帯電話=安い端末」というイメージが定着してしまった。使い捨ては良くない。