日本のIT業界を特徴づける「多重下請構造」について、日本の内と外、異なる視点から多角的に取り上げ考察する本対談。第2回では、日米で天と地ほども違うプログラマーを巡る境遇を紹介し、なぜそんな違いが生じるのかについて掘り下げていく。(司会・進行は石井 智明=日経コンピュータ編集委員)
――前回の最後で話が出ました、ソフトウエアの製作がアートなのか、それともサイエンスなのかという議論は、結構、根源的な問いかけです。そもそも、日本のITゼネコンはアートをやろうとしているのでしょうか。
中島 してないですよね。アートではない、ある意味ファミレスの食事のような、キッチンにいる人なら誰にでも作れるようなソフトを目指していると思います。
木村 コンピュータの黎明期からずっと、SIerが作っているシステムはバックヤードです。会計システムを軸にして、バックヤードのシステムは業種、業態を問わず、非常に似たようなことをやっている。ビジネスプロセスだって、特に経理のプロセスなどははっきりしていますから、1つできれば、それをテンプレートに次から次へと応用が効く。現実には同じコードもたくさん使いながら、「スクラッチで作っている」と言ってきたわけです。
それを基幹系システムと称して、主にそこでビジネスをやっている。サイエンスであるかどうかは別にして、多数の技術者を投入した大規模プロジェクトを手掛けてきましたから、中島さんがおっしゃった「誰でも作れるようなソフト開発」は当然できていると彼らは思っています。
中島 そこも本当はホリゾンタルなビジネスが生まれるべきじゃないですか。独SAPみたいな。
木村 おっしゃる通りです。
中島 マイクロソフト、グーグルが日本にいないのはいいとして、何でSAPが日本にいないか、本当に情けないですよ。
木村 それなんですが、例えば日本にはオービックという会社があります。彼らは独自のERP(統合業務ソフト)を持っている。大体中堅クラスまでの企業をターゲットにしているのですが、営業利益率は40%を超えています。
彼らの主要顧客である中小企業も、最初は自社向けのシステムを作ってくれと言っていたのですが、それに対して「パッケージを使ってください」「これを使えば大丈夫です」と啓蒙していった。それでSAPのように業種、業態で少し違うビジネスプロセスもちゃんと入れて、日本型のERPとしてどんどん普及していった。10年前、営業利益率は30数パーセントでしたが、今では40%ぐらいになっています。非常に特殊な成功例といえます。