前回(会社合併を伴わないシステム統合の苦難)は、MS&ADインシュアランスグループホールディングス(MS&ADホールディングス)が苦難の末、グループの共同利用システム「ユニティ」を本格稼働するまでの道程を解説した。
 今回はユニティの開発を通して得た教訓を基に、同社が取り組んだグループ内のITガバナンス強化や、グループ一丸となって行動するための体制作りについて紹介する。

 グループのシステム関連会社であるMS&ADシステムズの山内憲二代表取締役社長は「ユニティ開発を通じて二つの教訓を得た」と話す。一つは「関係者全員が『グループベスト』の意識を持つ」。もう一つは「遠慮とあいまいなコミュニケーションをなくす」である。

 一つめの教訓は、グループ内の各事業会社にとっての最適ではなく、グループ全体の相乗効果を優先するよう、各人が意識を変えなければいけないということだ。

 MS&ADホールディングスは三井住友海上グループ、あいおい損害保険、ニッセイ同和損害保険の3社が経営統合して誕生した。その後、あいおいとニッセイ同和が合併したが、三井住友海上は併存となった。

 ユニティの開発は前回見たように会社合併を伴わないシステム統合だったため、三井住友海上とあいおいニッセイ同和が各社の利便性を優先したり、用語や開発ルールが異なったりする問題があった。このため、なかなか要件がまとまらなかった。

IT部門行動原則を策定

 各社員にグループベストの意識を根付かせるため、MS&ADホールディングスは2014年初旬にグループ全体の「IT部門行動原則」を策定した(図1)。

図1●グループ全体のIT部門行動原則
図1●グループ全体のIT部門行動原則
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 行動原則は五つある。グループベストの観点に立ち、相乗効果の高いITサービスを提供する、ビジネス戦略に貢献できるITサービスを常に提案する、といったことをグループ内のIT部門一人ひとりの行動指針とした。

 IT部門行動原則が完成したら、「グループ各社の経営会議で内容を報告し、周知徹底を進めた」(山内社長)。2014年2月には海外拠点のCIO(最高情報責任者)を集めた年次会議で、英語版のIT部門行動原則を使って説明した。