WirelessHDは、60GHzを直接扱うCMOSデバイスとスマートアンテナを組みあわせてビデオ伝送を行うことを計画していた。これは、2008年のCES取材時に撮影したプロトタイプボード
WirelessHDは、60GHzを直接扱うCMOSデバイスとスマートアンテナを組みあわせてビデオ伝送を行うことを計画していた。これは、2008年のCES取材時に撮影したプロトタイプボード
(撮影:塩田 紳二)
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 9月になって、米インテルがWiGigデバイスの生産を終了するというニュースが飛び込んできました。確かに現行のWiGig製品のいくつかに関して、インテルから生産終了の通知が出ているようです。ただ全WiGig製品ではなく、初期に開発した製品のいくつかが年内に生産終了になる、ということのようです。

 まだ生産終了になっていないWiGig製品もあるのですが、インテルのWebサイトでは、WiGig関連製品へのページを見つけられず、製品名で検索する必要があります。すでに「看板」を引っ込めた状態のようです。

 その他にもいくつかのウワサを耳にしていますが、WiGigを利用したドッキングステーションに関しては、あまり明るい話を聞きません。

 WiGigは、60GHzの無線を使うネットワーク技術の1つです。無線LANの1種としてIEEE 802.11adとして規格化されていて、ギガビットクラスの通信を実現する次世代の接続技術として話題になりました。2017年には、いくつかのメーカーがオプションとしてWiGigを使ったワイヤレスドッキングステーションを製品化しています。

 筆者も次のパソコンでは、WiGigのドッキングステーションがオプションになったものを試してみたいと考えていました。

WiGigはこうして生まれた

 WiGigは、製品化されるまで長い道のりがありました。60GHzという高い周波数の通信機能を、一般消費者向けの製品に組み込めるような仕様や価格帯で実現することは、結構ハードルが高かったのです。

 そもそも60GHzでの通信を実現しようという動きは、2008年頃に遡ります。2008年1月に開催された「CES 2008」で、Wireless HDという業界団体が製品のデモンストレーションを行いました。当時普及期にあったフラットフルハイビジョンテレビのビデオ入力として無線技術を採用するという方向性が、多くの家電メーカーのブースで示されました。

 このときの仕様の1つが「WirelssHD」、もう1つが「WHDI(Wireless Home Digital Interface)」で、フラットテレビのメーカーは、このどちらかを採用するという方向性になっていました。WHDIは、5GHz帯の無線を使うという、かなり「普通」な仕様でした。現在の2.4GHz帯の混雑ぶりを考えると、WHDIが普及しなくてよかったと思います。

 これに対してWirelessHDは、60GHzという極端に高い周波数を使うもので、今振り返ってもかなり「飛んだ」仕様でした。60GHzにもなると、電波はほとんど光のように直進するので、その伝送路の途中を人が横切っただけで電波が途切れてしまいます。このため、直接電波が伝わらない場合には壁などの反射を利用して通信を行うようになっていました。このために指向性を制御できる「スマートアンテナ」が欠かせませんでした。

 筆者は当時、WirelessHDのプライベートブースで、デモを見て、取材をしました。そのときの話では、WirelessHDは、60GHzを直接扱うCMOSチップを使い、スマートアンテナまでを一体にしたパッケージを作るという話でした。

 開発は、WirelessHDのメンバー社の1つ、米SiBEAMという企業です。ちなみにこのSiBEAMは、その後米Silicon Imageに買収され、さらにSilicon Imageが米Lattice Semiconductorに買収された関係で、同社の一部門となっています。WirelessHDに準拠した画像伝送アダプターのような製品が市販されたようですが、フラットフルハイビジョンテレビの標準的な動画伝送手段として多くのメーカーに採用されるところまでは行かなかったようです。