無料Wi-Fiサービスにつきものの「利用開始手続き」。その役割を巡り、Wi-Fiサービスの提供者の間で2つの取り組みが交錯している。個人情報の入力を省いて、簡単に利用できるようにするサービスが登場する一方で、個人の特定につながる情報収集を維持、もしくは強化すべきだという意見も根強くある。

 メールアドレスなど個人情報を収集せずに使える無料Wi-Fiサービスは増える傾向にある。先駆け的な存在は成田国際空港。2014年12月には京都市が利用条件などの「確認」だけで利用できるよう手続き方法を変更した。ともに訪日外国人の利便性を考えた結果だった。このほか西武ドームのように、主な利用がチケット購入者や球団関係者に限られる前提で、確認画面だけで利用できるようにした施設もある。

「追跡性」と「利便性」を天秤にかける

 一方、「(世論が)利便性の重視に振れ過ぎている風潮は危険だ」(京都情報大学院大学の立石准教授)といった声が通信の専門家や事業者の間で高まっている。ソフトバンクモバイルは、利用者が登録したメールアドレスにIDとパスワードを知らせるメールを送り、アドレスの実在性を確認するという標準的な手続きを緩める考えはないとする。京都市の運営を請け負ったWi2も「受託先の強い要望がある場合などを除いて、アドレスの実在性を確認する今の方法は維持する」(企画本部の桑原副本部長)と話す。

 取得した個人情報は、通常は利用しないまま保存している。サイバー犯罪やネット上での権利侵害など、捜査機関から照会があった際に初めて情報を取り出す。ただし運営規模が大きいと「1日に数件の照会が来る」(ある通信事業者)といい、おろそかにできない。サイバー犯罪グループなどから管理が弱い点を突かれないためにも、情報取得のレベルを維持する必然性がある。情報レベルを保ちながら利用者の利便性を高めることが課題になる。