起業家を取り巻く環境はこの20年で様変わりした。起業のハードルは下がり、起業家に対する社会の目も変わった。日本経済のさらなる発展のため、政府も新興企業への支援を惜しまない。大学を卒業し、大企業に就職することこそが疑いようのない成功への道――。

 こうした慣習は少しずつ薄れ、夢に向かって旗を揚げる起業家が後を絶たない。インターネット黎明期である1990年代後半、日本でもたくさんの起業家が生まれた。だが、その多くが表舞台から姿を消したのも事実。生き残り、そして今なお成長を続けている企業は少ない。

 「21世紀を代表する会社を創る」――壮大なビジョンを掲げて1998年に誕生したサイバーエージェントはその1社だ。同社を率いる藤田晋社長が思う起業、そして起業家とは。(聞き手は原 隆=日経コンピュータ)


藤田さんがサイバーエージェントを起業したのは1998年です。当時と今、起業家を取り巻く環境はどのように変わったのでしょうか。

撮影:陶山 勉
撮影:陶山 勉

藤田 サイバーエージェントが上場した2000年、僕は26歳でした。当時、史上最年少記録を破りましたが、その前は光通信の重田康光さんで34歳でした。それだけ当時は若い人がうまくいくという社会通念が無かったんですね。

 あの頃は、そもそも若くして上場するなんてことはまずあり得ないし、投資家も集まりませんでした。大企業がベンチャー企業と取り引きするというのも珍しいことでした。ベンチャーというだけで大企業側の社内稟議が通らないということが当たり前のようにあった時代です。その後、メディアが「大企業こそベンチャー企業との連携が大事」と打ち出してくれたこともあって、徐々に理解が進みました。

 今では若い起業家が次々と出てきていますし、「若い人でもできる」という前提で投資してくれたり、取り引きしてくれたりします。若い人が起業を目指す上で社会通念が確立されたメリットは非常に大きいでしょう。ベンチャー企業に対する風当たりも当時と比べると明らかに緩和されています。資金調達環境、取引環境、採用環境、すべて当時とは比べものになりません。