ビジネスのデジタル化が進展し、経営やビジネス部門がITサービスに求めるものがバックオフィスシステムによる間接業務の効率化といったコスト削減から、ビジネスに直結するフロントオフィスシステムを生み出すことに変わってきた。一方で、クラウドの隆盛によって、ビジネス部門はIT部門に頼ることなく、自らITサービスを調達し、デジタルビジネスを創出することが可能になってきた。これはIT部門の中抜きを意味する。中抜きされたIT部門に残るのはバックオフィスシステムの維持管理だけとなるが、経営やビジネス部門の関心はそこにはない。

 技術革新によるパラダイムシフトは、例えばダウンサイジングなど過去にもあった。ただ、多くはITサービスの作り方に関わる変化にとどまり、IT部門の地位を脅かすものではなかった。しかしクラウドの登場は、ITサービスの調達方法を変革する性質を持っており、IT部門の将来にわたる存在意義を根底から問い直すという点において、過去のパラダイムシフトと一線を画している。

 個々のビジネス部門の視点で見るとクラウドの利用は魅力的な選択肢の一つであるが、全社視点で見た場合は幾つかの課題も見えてくる。

 まず、個々のビジネス部門で個別最適化を推進することはサイロの山を生み出し、インフラ投資の観点で非効率につながる。加えて、機能要件は考慮されても、セキュリティといった非機能要件が置き去りにされるリスクがある。

 インフラ投資やセキュリティリスクなどを全社視点でコントロールしつつ、ビジネスを加速させるIT戦略を練る役割の重要性が従来以上に高まっている。この役割を果たせるのは個々のビジネス部門ではなく、全社的視点に立ったIT部門に他ならない。

 では、クラウド時代においてIT部門に求められる役割とは具体的にどのようなものか。ITIL 2011をひも解きながら考察していこう。