クラウドコンピューティングとITサービスマネジメントの動向を調査結果からひも解いていこう。

 まずはクラウドの活用状況だ。調査によれば、回答企業の過半数の企業(56%)が既に何らかの形でクラウドを利用している。準備中あるいは検討中を含めると、その割合は75%に達する。このことから、クラウドは日本においても確実に普及が進んできたと言える。

 しかし内容を見ると、クラウドへの年間支出は1000万円未満の企業が40%余りを占めており、活用内容も過半数の企業がグループウエア業務をパブリックSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)で動かすなどのレベルにとどまっている。現状はまだクラウド利用の初期段階にある。

 クラウドの利用メリットに関する調査結果もこれを裏付けている。図1は、現状のメリット達成度を回答企業が自己評価したものである。期待した成果が既に実現できたとする企業の割合について、最も多い項目は「保有資産圧縮によるITコスト削減」(32%)である。これは、クラウド導入時のメリットであり、現在はまだ多くの企業がクラウド活用の初期段階にあることを裏付けている。

図1●クラウドの利用メリットに関する自己評価
図1●クラウドの利用メリットに関する自己評価
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 今後、クラウドへの期待はどう変化するのだろうか。クラウドに対して今後期待するメリットとして何を重視するかを尋ねた結果が図2だ。やはり、「保有資産圧縮によるITコスト削減」を“非常に重視する”という回答が最も多い(42%)。しかしその後には、「機動的な事業拡張の実現」(30%)、「需要変動への柔軟な対応」(27%)、「グローバルでの共同利用や企業連携の容易化」(22%)と続く。

図2●クラウドへの期待として重視するもの
図2●クラウドへの期待として重視するもの
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 この結果は、そうした企業がクラウド本来の柔軟性を活用し機動的な事業展開を目指そうとしていることを示している。多くの企業が、今後は、クラウドがよりビジネスの進め方、すなわち経営/事業戦略そのものに貢献することを望んでいる。

 その実現のために、クラウドをより戦略的な視点で捉え、全体最適なIT投資やソーシングを目指す必要がある。そうなると、ITILのサービスストラテジ、サービスデザインの考え方の重要性が増すはずである。サービスストラテジは、経営戦略や事業戦略に基づきITとしての戦略を立て、IT投資のポートフォリオをマネジメントすることを推奨する。

 つまり、価値の源泉である本業から発するバリューチェーンを明確にすることにより、ITとして重点を置くべきことを明確化し、IT活動をガバナンスするという手順が重要なのだ。それによって初めて、具体的なIT戦略が全体最適なIT投資やソーシングに貢献するのかを判断することができる。サービスデザインはそれを受けて、複数のサービスを組み合わせて効果的効率的に実現する方式を、機能や非機能を含めデザインするのである。