米半導体大手のインテルが、同業の米アルテラを100億ドル(約1.2兆円)超で買収しようとしている――。

 2015年3月末、半導体業界では史上最大規模となるM&A(合併・買収)交渉の存在が明らかになった。同年4月初旬には「交渉は決裂」との報道が流れた一方、4月13日にはアルテラの大株主が経営陣に「アルテラはインテルと交渉のテーブルに戻るべきだ」との書簡を送るなど、沈静化したとは言えない状況だ。

 このM&A交渉は、次世代のコンピューティング・アーキテクチャーをめぐる覇権争いの一端といえるものだ。

 x86系CPU(マイクロプロセッサ)とDRAM、汎用バス群。いわゆる「PC(パソコン)アーキテクチャー」と呼ばれる構成に基づくPCサーバーは、IT業界を席巻した。米グーグルから米アマゾン・ドット・コムまで大手IT企業の中核インフラを今も支えている。

 PCサーバーはこれまで、半導体の集積度が2年で倍になるという「ムーアの法則」に従い、年を追うごとに処理速度や省電力性能を飛躍的に高めてきた。このためIT企業は、ひとたびサービスを成功させて市場を寡占すれば、黙っていてもインフラコストが低下し、その利益を享受できた。

 だが、その状況が終わりつつある。CPUの成長を牽引していた「ムーアの法則」が物理的な限界を迎え、PCサーバーの性能向上速度が鈍化しているのだ。

 インテル社の共同創業者であるゴードン・ムーア氏が「ムーアの法則」の原型となる論文を公開したのは、1965年の4月19日。ちょうど50年が経過した今になって、コンピューティング技術は大きな壁に突き当たっている。

大手IT企業が自ら次世代アーキテクチャーを模索

写真●米アルテラ コンピュータ&ストレージビジネスユニット ディレクターのマイク・ストリックランド氏
写真●米アルテラ コンピュータ&ストレージビジネスユニット ディレクターのマイク・ストリックランド氏
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 半導体の性能向上が約束されない以上、PCサーバーという単一のアーキテクチャーにしがみついていても未来がない――グーグル、マイクロソフト、中国百度(Baidu)といった大手IT企業は、次世代のデータセンターを支えるコンピュータ・アーキテクチャーの模索を始めている。

 試行されているアーキテクチャーは多種多様だが、一つ共通点があるとすれば、従来のCPUに代わり、並列処理に長けたプロセッサ、例えばGPU(グラフィックス処理チップ)やメニーコアプロセッサ、そしてFPGA(内部の論理回路をプログラミングして再構成できるチップ)を主役に据えようとしている点だ。

 インテルが買収しようとしたアルテラは、FPGA市場で米ザイリンクスとシェアを二分する大手企業である。FPGAは、内部の論理回路を自由にプログラミングすることで、画像処理から圧縮、暗号化、機械学習まで、様々な処理をCPUより高速かつ省電力に実行できる。

 本連載では、新たなコンピュータ・アーキテクチャーを試行し、データセンターを再定義しようとする企業の挑戦について、当事者のインタビューを中心に紹介する。

 第一回は、米アルテラのFPGA戦略について、同社のコンピュータ&ストレージビジネスユニット ディレクターのマイク・ストリックランド氏に聞いた(写真)。