[リテール強化]メガバンク級のデータ活用

 ある日の朝9時、地銀の若手営業であるAさんは、先日大手メーカーを定年退職したBさんに電話を掛けていた。「はい、このあと11時にお伺いします」。退職金の運用相談に乗るアポを取り付け、慌ただしく投信のパンフレットを用意する。

 Aさんは昨日まで、Bさんが定年退職したことを知らなかった。タイミングよく電話を掛けてアポを取れたのには理由がある。始業前に、「昨日、B様の口座に退職金が入金されました。資金運用についてヒアリングしてください」というメッセージが、AさんのPC端末に表示されたのだ。

7行が共同でEBMを実践

 このように、顧客の変化に合わせてタイムリーに適切な商品を提案する取り組みは、「EBM(イベント・ベースド・マーケティング)」と呼ばれ、注目を集めている。地銀では、横浜銀行や京都銀行など7行が参加しNTTデータがシステムを提供する「共同MCIFセンター」が、それを実現している(図1)。

図1●「共同MCIFセンター」の仕組み
図1●「共同MCIFセンター」の仕組み
[画像のクリックで拡大表示]

 同センターは、どんなケースでどういう営業活動をすると効果的かというモデルを分析・導出し、参加行にフィードバックする。2015年夏には参加行が9行に増える予定だ。「メガバンクに匹敵、あるいはそれをしのぐビッグデータを活用できる」と、横浜銀の丸山浩司IT統括部部長は利点を強調する。

 EBMを実現するため、共同MCIFセンターは、参加行から顧客の属性情報や取引情報、交渉内容などを日次で収集しデータベースに集約する。蓄積データは顧客情報だけで約2500万人分。収集するトランザクション量はピーク時に1日当たり約2000万件に及ぶ。

 横浜銀行の子会社である浜銀総合研究所の分析専門家を中心に各行のマーケティング担当者が共同で、集約した各種データを分析。効果的な営業活動のパターンを導き出す。

 導出したパターンは、各行向けに構築したEBM・分析サーバーに設定し、イベントを検知すると、各行のCRM(顧客関係管理)システムなどに情報を配信する。2013年のセンター発足以来、100個近くのルールを作ったという。例えば、「ある年齢以上の顧客の給与振込口座に多額の入金があった場合、それは退職金である」といった具合だ。

 2015年夏に参加を予定している武蔵野銀行の山田哲営業企画部企画グループ調査役は、「営業スキルは差異化要因になり得る。しかし、上司が若手にそのノウハウを教えるために割ける時間は減っている」と打ち明ける。ここで、共同MCIFセンターでの取り組みを生かす。

 同行は、共同MCIFセンターが配信するイベント情報を営業のPC端末などに通知し、活用する予定だ。「優秀な営業担当は、タイミングの良い提案をする。それを全行に広め、営業スキルを底上げしたい」と、山田調査役は説明する。