仮想現実(VR)を実現するデバイスは増えているものの、良質なVR体験ができるデバイスはまだ高額で導入のハードルも高く、なかなか広まっていないのが実情だ。だがここ最近、VRの本格導入に向けた新たな動きが、パソコンやスマートフォンで急拡大している。

高額製品に限られていた従来のVR

 ここ数年来注目を集めている仮想現実(VR)は、サムスン電子のスマートフォンを活用したヘッドマウントディスプレイ(HMD)「Gear VR」を皮切りとして、Oculus VRの「Oculus Rift」やHTCの「HTC Vive」などパソコンに接続するタイプのHMD、そしてソニー・インタラクティブエンタテインメントの「PlayStation VR」などコンシューマーゲーム機に接続するHMDなど、急速にそのバリエーションを増やしている。

 だが実際のところ、その多くがHMD自体の値段、あるいは必要となるハード自体の値段が高いことから、多くの人達にとって手を出しにくいという状況は変わっていない。当初値段の高さから批判を集めたOculus Riftは、値下げしたとはいえまだ5万円はするし、HTC Viveも8万円台だ。利用のためにハイエンドなパソコンを用意する必要があることも考えると、まだまだハードルは高い。

 比較的導入しやすいのは、既にゲーム機自体を購入している人が多いPlayStation VRや、1万円台から購入できるGear VRなどだろう。だがそれでも、前者は価格が4万円以上するし、後者に関しては「Galaxy S8」「Galaxy Note8」など、サムスン製の高額なハイエンドスマートフォンを用意しなければならず、選択肢が限られる。

スマートフォンを使った本格的なVR環境は、現在のところサムスンの「Galaxy VR」に対応したスマートフォンによるシステムなど、ごく一部に限られる。写真は5月30日のau新商品・サービス発表会より(筆者撮影)
スマートフォンを使った本格的なVR環境は、現在のところサムスンの「Galaxy VR」に対応したスマートフォンによるシステムなど、ごく一部に限られる。写真は5月30日のau新商品・サービス発表会より(筆者撮影)
[画像のクリックで拡大表示]

 もちろん、スマートフォンを活用した簡易的なVR環境であれば、今では100円ショップでも購入できるなど、ハードルはとても低い。しかしながらVRは、ハード性能が悪ければ「VR酔い」など様々な問題を引き起こすだけに、本格普及のためにはやはり快適に利用できる、本格的なVR体験の提供が不可欠だと筆者は感じている。

Windows 10でVRを標準サポート、低性能PCでも利用可能に

 だがここ最近の動向を見るに、そうした本格的なVRを従来より手軽に利用できる環境を提供する取り組みが、急拡大している印象を受ける。

 取り組みの1つが、マイクロソフトの「Windows Mixed Reality」の提供開始である。これは同社が10月18日より提供する「Windows 10」のアップデート「Fall Creators Update」の適用により使えるようになるWindowsパソコン向けのVR環境だ。アップデートを施したパソコンに対応するヘッドセットとコントローラーを接続することで、VRや拡張現実(AR)などのコンテンツを利用できる。

 最大のポイントは、Windows 10を提供するマイクロソフト自身がOSレベルでVRやARをサポートしていること。それによってある程度低い性能のパソコンであっても、表示時のフレームレートやグラフィックの質などが落ちるデメリットはあるものの、VRなどのコンテンツ自体は利用できるという。日本マイクロソフトによると、対応機種は2017年8月末に出荷されたモデルの約4割に達しているとのことだ。