2011年の東日本大震災によって甚大な被害を受けた地域に、新たにIT産業を根付かせる取り組みが進められている。被災地で継続的にイベントを実施する意義はどこにあるのか。またそうした取り組みによって、実際にIT産業を根付かせることができるのか。ゲーム開発者団体のNPO法人が福島県内で毎年開催しているイベント「福島GameJam」から探ってみよう。

プロ・アマ混合チームが30時間でゲーム開発

 東北地方太平洋側を中心に、津波による甚大な被害と福島第一原子力発電所の事故をもたらした東日本大震災から5年が経過した。既に日常生活を回復したところがある一方で、津波や原発事故の影響からいまだに復旧が進んでいない地域も少なからずある。2016年4月には新たに、熊本県を中心に甚大な被害をもたらした熊本地震が発生。熊本地震に至っては発生してから間もないだけに、復旧も途上という状況だ。

 そうした震災被災地に向け、新たな産業育成に向けた取り組みもいくつか進められている。中でもITに関連する産業育成に向けた取り組みの1つが、コンピューターゲーム開発者を支援するNPO法人、国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)が実施している「福島GameJam」だ(写真1)。

写真1●福島県郡山市を中心として開催された「福島GameJam」。プロと学生の混成チームが30時間でゲームを開発し、技術やノウハウを学ぶイベントだ。写真は同イベントより(筆者撮影)
写真1●福島県郡山市を中心として開催された「福島GameJam」。プロと学生の混成チームが30時間でゲームを開発し、技術やノウハウを学ぶイベントだ。写真は同イベントより(筆者撮影)
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 このイベントは、東日本大震災の被災地の中でも、福島第一原子力発電所の事故の影響を強く受けている福島県内の会場を中心として、日本全国と世界各地に会場を設けて実施される、ゲームジャムイベントである。ゲームジャムとは、プログラマーやデザイナーなどが集まってチームを組み、数時間から数日のうちに1本のゲームを企画し、開発するイベントのこと。ゲームに特化したハッカソンと言えば分かりやすいだろうか。

 福島GameJamが初めて開催されたのは、東日本大震災発生直後の2011年。東北でITやゲームの開発を学ぶ学生と、東京などから参加するプロのゲーム開発者が同じチームの中でゲームを制作することで、そのノウハウを共有し東北での人材育成を進めること、開発の様子を動画配信して被災地の現在の状況を伝えること、そして人的交流などにより東北ITクラスターの礎を作ることを目的として実施されている。

 6年目を迎える今年は、7月30日から31日にかけて、福島県郡山市のWiZ 専門学校 国際情報工科大学校をメイン会場として実施。国内では福島のほか、東京や岡山、愛媛、広島、山口、沖縄に会場が設けられたほか、台湾やチリにも会場が用意され、計414名が参加。各会場で数人のチームに分かれ、30時間を通してゲームを開発した(写真2)。

写真2●福島を含む全国各地に加え、台湾やチリにも会場が設けられ、合計で414名が参加した。写真は福島GameJam 2016より(筆者撮影)
写真2●福島を含む全国各地に加え、台湾やチリにも会場が設けられ、合計で414名が参加した。写真は福島GameJam 2016より(筆者撮影)
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