オンライン医療アプリを提供するベンチャー企業のメドレーとKDDIは2017年5月18日、福島県南相馬市の病院にタブレットを活用した遠隔診療を提供すると発表した。第5世代移動通信システム(5G)の特性が生かせる分野として注目される遠隔医療だが、現在のネットワーク環境で提供でき、なおかつニーズがある遠隔医療とはどのようなものなのだろうか。

原発事故の帰還支援に向け遠隔医療を導入

 2017年に入ってから、モバイル業界では次世代モバイル通信の5Gに向けた動きが急加速している。5Gは「高速・大容量」のほか、IoT時代に向けた「同時多数接続」とネットワーク遅延が少ない「低遅延」の実現が期待されている。なかでも低遅延を活用したサービスの1つとして、よく挙げられるのが遠隔医療である。

 遠隔医療といえば、遠く離れた場所から外科医が手術をする仕組みの実現が期待されているが、そこまで高度なものでなくても、現状のインフラで提供できる遠隔医療サービスがいくつかあるようだ。そうした事例の1つとして、オンライン医療アプリを提供するメドレーとKDDIが5月18日に発表した、福島県南相馬市での遠隔医療の取り組みを追ってみたい。

 今回、両社の協力によって遠隔医療が提供されるのは、南相馬市の小高区にある小高病院である。小高区は南相馬市の南部にあり、福島第一原子力発電所がある双葉郡に隣接している。そのため東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故の影響を非常に強く受けており、5年にわたって避難指示が出されていたことから住民は遠方への避難を余儀なくされていた。

南相馬市の小高区にある小高病院。震災前は地域医療の中核として入院患者も受け入れていたが、再開後は深刻な医師不足で業務を大幅に縮小している(筆者撮影)
南相馬市の小高区にある小高病院。震災前は地域医療の中核として入院患者も受け入れていたが、再開後は深刻な医師不足で業務を大幅に縮小している(筆者撮影)
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 だが2016年7月に、帰還困難区域に指定されている一部地域を除いてようやく避難指示が解除され、住民が徐々に戻り始めている。既に2000人以上が小高区で生活しているそうだが、帰還に向け大きな課題となっているのが生活インフラの不足、中でも医師不足だという。

 小高病院はもともと、小高区の地域医療の中核を担う存在だった。だが震災前は2人いた常勤医師が、再開後は1人に減少してしまった。周辺の診療所も回復していないことから、2000人以上の医療を1人で担っているような状況だと、小高病院の常勤医師である藤井宏二氏は話す。

 しかも帰還が進んできたとはいえ、帰還率はまだ30%未満であり、その半数を高齢者が占めている状況だ。そのため車の運転が難しい、足が不自由であるなどの理由から、病院に訪れるのが難しい人も多いとのこと。

 通常、そうした人達に向けては医師が患者宅に訪問して診察をするのだが、医師の数が圧倒的に不足している小高病院では、訪問診療で医師にかかる負担が非常に大きい。そこで南相馬市長の桜井勝延氏は藤井氏と相談し、在宅患者への遠隔医療を提供するべく、メドレーに声をかけたことから、今回の遠隔医療の実現に至ったのだという。