これまで3回にわたり、特許庁のシステム刷新について説明した。第4回は、特許庁システムと並ぶ大規模システムである年金システムの刷新プロジェクトを、続く第5回は政府システム全体のITガバナンスについて解説する。

 2007年以来、事実上停滞していた年金記録管理システムの刷新プロジェクトが再始動する。厚生労働省は、個人番号(マイナンバー)管理を含めた基盤システムの設計、開発、構築を先行して進めるとともに、刷新の本丸となる業務アプリケーション開発の入札に向けて準備を進めている。

 年金記録管理システムの運用保守にかかる費用は、従来の年間550億円から、3割減の300億円と大幅に減る見通し。総投資額は、計画が始まった2006年から終了予定の2020年までの総計で、法改正に伴う修正を含めて1800億円ほどとみられる

 大型プロジェクトの重複で技術者が不足する「2015年問題」の動向にもよるが、早ければ2015年度中にも業務アプリケーション開発の調達を始めたい考えだ。

分割調達で相次ぎトラブル

 このプロジェクトは元々、2011年の稼働を目指して2006年に始まった。やや長くなるが、プロジェクトの開始から停滞、再始動に至るまでの経緯を振り返ろう。

 刷新プロジェクトの大きな狙いの一つは、運用保守費用の削減だった。一般競争入札で複数のベンダーに分割発注し、ソフトウエア著作権も原則として厚労省に帰属させることで、システム費用の適正化を図る考えだった。

 厚労省は、基盤ソフトの基本設計と全体工程管理をアクセンチュアに、適用や徴収、給付など業務アプリケーションの基本設計をNTTデータ、日立製作所、沖電気工業に分割発注した。

 だが、本来は密接に連携するシステムを分割して発注したため、システム間連携や共通機能をうまく設計できなかった。さらに2007年に発覚した年金記録問題を受けて、データの入力ミスを防ぐ機能の不備が明らかとなり、刷新計画は凍結されてしまう。