8年がかりの基幹系システム刷新に挑む特許庁。2014年7月に特許庁長官に就任した伊藤仁氏(写真)に、新たに業務システムを作り直すことの意義や、プロジェクト完遂に必要な組織体制を聞いた。

写真●特許庁長官の伊藤仁氏(撮影:陶山勉)
写真●特許庁長官の伊藤仁氏(撮影:陶山勉)
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今回のシステム刷新について、運用コスト削減という目的があるのはもちろんだが、特許庁の知財戦略からはどのような意味があるのか。

 特許庁は、特許などを出願する技術者や企業に、(審査や権利化といった)サービスを提供する組織といえる。サービス提供者という視点で、ユーザーのニーズに沿ってサービスを改善し続ける必要がある。
 
 今回のシステム刷新の大きな狙いの一つには、特許の制度改正やサービスの改善策を、できるだけ素早く情報システムに反映できるようにすることがある。現行のシステムでは、どうしても修正に時間がかかる構造(アーキテクチャー)になっている。新システムではこの点を改善する。

 もちろんシステム刷新と並行し、ユーザーのニーズに応えるシステムの開発は随時進めていく。2015年1月に公開した「中韓文献 翻訳・検索システム」はその一環だ。約1000万件の特許文献を機械翻訳技術で日本語に訳し、検索できるようにした。

 特に現在、中国の特許出願件数が爆発的に増えている。我々も特許審査の際に参照する必要があるし、企業ユーザーにとっても中国特許の重要性は高まっている。我々は中国政府と協力し、特許の公開から3週間後には機械翻訳版を検索できるようにした。

今回のシステム刷新に当たり、過去のシステム刷新失敗の反省をどのように生かしているか。

 私は2006年に経済産業省から内閣官房に出向した2年間、政府システムの刷新について調べる機会があった。そこで各省庁の幹部が「ITは専門的な話だから」と現場に任せきりになっているのは問題だと考えていた。

 特に特許庁は、出願から審査、公開まで大半の業務が情報システムの上で進んでいる。情報システムが止まれば我々の仕事は成り立たない。

 今回のシステム刷新に当たっては、特許庁長官と特許技監(特許庁CIO)、そして特許庁の業務を担う各課の課長が、月1回の頻度で刷新プロジェクトについて議論する会議体を運営している。

 特許庁の業務を担う審査業務課、商標課、意匠課、審判課など10人ほどの課長と、総務部、情報システム室担当者などが集まり、特許庁長官と特許技監にプロジェクトの進捗について報告する。