特許庁のシステム刷新プロジェクトが中止に追い込まれてから、3年(ITpro関連記事:55億円無駄に、特許庁の失敗)。同庁は、失敗の事後処理と並行して、システム刷新の再開に向けて粛々と準備を整えていた。過去の失敗を分析し、新たな計画に反映していった。同じ間違いは二度と繰り返さない覚悟で、システム刷新に再挑戦する(写真1)。

写真1●特許技監 特許庁CIOの木原美武氏(手前中央)と、プロジェクト全体を管理する特許庁PMOのメンバー
写真1●特許技監 特許庁CIOの木原美武氏(手前中央)と、プロジェクト全体を管理する特許庁PMOのメンバー
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 今後、数百億円を投じ、8年がかりでシステムを順次更新する。現行システムは運用・保守に年間250億円を費やしており、システムの刷新で費用の3割減を目指すほか、審査業務の迅速化、利用者の利便性向上を図る考えだ。

 今回のプロジェクトは、四つのポイントで過去のプロジェクトとは大きく異なるものとなった。といっても奇をてらうものではなく、いずれもシステム開発の正攻法に沿ったものである。

(1)特許庁の職員が自ら業務を可視化
(2)入札方式を技術重視に
(3)開発の難易度を引き下げ
(4)長官をトップとする推進体制

 今回はこのうち(1)と(2)をテーマに、刷新プロジェクトの中身を検証する。

(1)特許庁の職員が自ら業務を可視化

 ここが、過去プロジェクトと最も異なるポイントだろう。過去の刷新では、この業務の分析で大きくつまずいた。新計画を説明する前に、過去の失敗の経緯を改めて振り返ろう。

 2006年にスタートした刷新プロジェクトにおいて、特許庁は現行業務の分析作業を、ほとんどITベンダーに丸投げしていた。当時の特許庁は、ITベンダーの担当範囲を「基本設計と詳細設計」としながら、実際には現行業務の分析まで担わせていた。

 2006年12月に新システムの設計・開発業務を落札したITベンダーは、当初は60人体制で業務を可視化したが、ITベンダー自身が特許庁の業務に詳しくなかったこと、特許庁の情報システム室と、システムのユーザーとなる業務部門(原課)の連携がうまくいかなかったことで、作業が遅れた。