格安SIMは「データ伝送量が少なく安価なSIM」いう意味にはとどまらない大きなインパクトをモバイルの世界に与えている。この世界では長年にわたって、大手携帯電話事業者(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル)がSIMカードを含む端末と回線サービスを一体でユーザーに提供するのが常識だった。

 MVNOが相次いで格安SIMの提供を始めたことで、ユーザーは大手事業者から押し付けられた料金プランでなく、自分の用途にあった回線サービス=SIMを選択できる環境を手に入れた。同時に端末もSIMロックがかかっていない「SIMフリー」スマートフォンが数多く登場し、端末の選択も自由になった。

 ネットワークサービスで、この10年で最も進化したのはモバイルブロードバンドだ。その高速化は今も続いており、速度では東京五輪が開催される2020年ころには最大10Gビット/秒という光ファイバー並みになる。格安SIMで安価になったモバイルブロードバンドを活用することで、これまでの常識を越えた新世代の企業WANを作り上げられる道が見えてきた。

 かつては電話網(ネットワーク)と強固に結びつき端末までが一体で提供されていた電話サービスも、登場から100年以上を経た今、格安SIMとスマホなどで実現するアプリケーションの一つとなった。ユーザーが自由に音声コミュニケーションを設計できるようになったのである。こうした視点で発想を飛躍させると長年進歩の乏しかった企業の電話を革新できる。

 本特集では4回にわたって、安さだけではない格安SIM、SIMフリースマホの意味とそれを企業ネットワークで生かすための活用方法を考える。実際のサービス料金や端末などを含め具体的に述べたい。

格安SIMを買うと分かる安さ以外の意味

 2015年2月の建国記念日、妻と二人で新宿駅西口のビックカメラへ出かけた。妻の誕生日プレゼントにSIMフリースマートフォン(スマホ)と格安SIMを買うためだ。それまで使っていたソフトバンクのiPhoneをフィーチャーフォン(ガラケー)に代えて電話専用にし、LINEをはじめネットやアプリはSIMフリースマホを格安SIMで使うのである。こうするとソフトバンクに毎月約6000円払っていたのが1300円になり(料金などは税別、以下同)、格安SIM(インターネットイニシアティブがビックカメラに提供している「BIC SIM」、SMS付きで音声サービスなし、データ通信容量2GB)は1040円なので、合計2340円。