ITproの人気連載「木村岳史の極言暴論!」の木村編集委員と、「ダメな“システム屋”にだまされるな!」など“ダメシス”シリーズの著者である佐藤治夫氏。ジャーナリストと、現役の“システム屋”という立場は異なるが、日本のIT業界に対する強い危機感では共通する。辛口の二人が語り合った。

(構成は清嶋 直樹=日経コンピュータ


「木村岳史の極言暴論!」の連載で、とりわけ反響が大きかったのが、「解雇が容易になれば、IT部門とIT業界の問題は片付く」という記事だ。

「ダメな“システム屋”にだまされるな!」の著者である佐藤治夫氏
「ダメな“システム屋”にだまされるな!」の著者である佐藤治夫氏
老博堂コンサルティング代表。1956年生まれ。79年野村コンピュータシステム(現野村総合研究所)入社。流通・金融などのシステム開発プロジェクトに携わる。2001年独立し、フリーランスで活動。2003年スタッフサービス・ホールディングス取締役に就任、CIO(最高情報責任者)を務める。2008年6月に再び独立し、複数のユーザー企業・システム企業の顧問を務めて現在に至る。
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佐藤:これはその通りだと思った。私は2003年から2008年にかけて、人材派遣大手のスタッフサービスでCIO(最高情報責任者)を務めていた(関連記事:「オー人事」のシステムを支えるCIOは、「IT用語嫌い」)。今はITベンダーの仕事をしていて、人材採用にも関わっている。

 私の人事分野の経験と照らし合わせても、終身雇用がIT業界にとってボトルネックになっていることはよく理解できる。

木村:多くの企業にとって、基幹系などの大規模システムの開発は一時的な仕事だ。製造業などではいったんシステムが稼働したら、5年、10年単位で長期的に使い続ける。開発中には大勢の技術者が必要だが、稼働後は少人数の運用保守担当者だけで済む。ITベンダーなら開発終了後に技術者を他のユーザー企業の開発案件に回せるが、ユーザー企業のIT部門はそういうわけにはいかない。

日経コンピュータ編集委員の木村岳史
日経コンピュータ編集委員の木村岳史
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 仕事が無くなくなっても、日本の法制度では正社員の解雇は容易ではないので、人を抱え続けざるを得ない。ユーザー企業のIT部門なら、IT以外の経理や人事、生産などの部門に配置転換することになる。システム導入によって効率化されたはずの間接部門でも、なかなか人件費を削減できない。

 一方のITベンダーも、ユーザー企業のシステム化需要には波があるので、余剰人員を抱えられない。システム化需要が盛り上がっているときは、正社員の技術者はフル稼働状態になり、調整弁として下請けにシステム開発を発注する。そうしてこの業界の多重下請け構造が出来上がっている。