いま脚光を浴びている人工知能。グーグルやマイクロソフト、フェイスブック、バイドゥ(百度)といった米中の大手IT企業が、この分野への投資を加速している。人工知能を使えば、人間には扱いきれない膨大なデータの中からビジネスに役立つ「意味」や「知識」を引き出せるからだ。

 今まで使い道がなかった「眠れる情報」を宝の山へと変えることができる——。

 そのことに気付いた先進企業が人工知能開発に猛烈な勢いで突き進んでいる。米中企業だけではない。日本企業も走り始めた。人間の脳を模倣した新技術「ディープラーニング」によって急速に実力を増した人工知能技術の最前線に迫る。

ビッグデータから「知識」を抽出する作業は人工知能に任せる。そうなると、人間はもはや不要かというと、決してそんなことはない。「適切な手法を選ぶ」など新たな役割を担うことになる。人間が果たす役割を4点挙げよう。

役割 1:適切な手法を選ぶ

 ここまで取り上げてきたディープラーニングは、決して万能の手法ではない。欠点もあるし、従来の手法を使った方が有効なケースも多い。人間が果たすべき一つめの役割は、適切な機械学習手法を選ぶことだ。

 ディープラーニングの欠点とは何か。画像認識技術の研究者である東京大学の原田達也教授は、「ディープ・ニューラル・ネットワークの内部をどのように設計すればよいか、明確な設計指針を誰も分かっていない点が課題」と指摘する。

 原田教授は2014年、論文などで公開されているConvNetのデフォルト設計を採用することで、自らの画像認識技術の精度を従来に比べて大きく引き上げた。今後、精度をさらに高めるためには、ConvNetの設計に手を入れていく必要がある。しかし「どうすれば効果的に精度が上がるのか、現状では設計を変えながら実際に試してみなければ分からない」(原田教授)という。

 現在、写真の中の被写体を識別する「一般物体認識」を実現するために、120万枚の画像をConvNetに学習させている。「GPGPUを取り入れた最新のシステムでも、学習には2週間を要する」(原田教授)。さらに精度を高めようとすると、ConvNetの設計を変えて学習をやり直し、精度がどれだけ向上したかを検証する作業を繰り返す必要がある。そうなると、膨大なコストがかかる。

 機械学習の手法は、ディープラーニングのほかにも様々ある。多くの企業にとっては、使いこなすのが難しいディープラーニングにいきなり挑む前に、既存の機械学習手法を取り入れていくのが現実的だろう。

 手法を選ぶ上で参考になるのが、横浜国立大学の濱上知樹教授の取り組みである。濱上教授は、横浜市が2008年から取り組んでいる「119番受信時の緊急度・重症度識別(コールトリアージ)」の予測モデル作りを担当している機械学習の研究者だ。

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