山内前回、Z会タブレットによって、継続率の向上や質問数の増加といった効果があったとうかがいました。ちなみに、サービスの価格は紙と比べてどの程度違ったのですか?

草郷:同じ価格です。タブレットを付けても、サービスそのものの価格は変えませんでした。タブレットは、2013年は無償で配布しました。

山内:それは、ずいぶん大盤振る舞いですね。先を見据えて、実験的な色彩があったということでしょうか。

草郷:それもありましたし、実は従来のビジネスモデルでは、教材や答案の物流費用が結構掛かっていたんです。タブレットがあれば、教材をPDFで送ったり、答案を画像で返却したりしますから、その費用が掛からなくなります。これによって、それほど収支が悪化しない形でやれると見込んでいました。

Z会 ICT事業部 執行役員/事業部長 草郷雅幸氏(奥)と、東京大学の山内祐平教授
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Z会 ICT事業部 執行役員/事業部長 草郷雅幸氏(奥)と、東京大学の山内祐平教授
(撮影:八木 玲子)

山内:システム開発費も上手に抑えられていますよね。答案を写真に撮って送るという部分は、当時Z会タブレットのニュースを見たときから印象に残っていました。システム開発の職人肌の人だと、答案を作成するところから全てタブレット上でやりたくなると思うんです。でもそれをやると開発にすごくコストが掛かる。

 実は、答案自体は紙で、写真を送る形で十分なんですよね。こうしたサービス設計もあって、紙と変わらない価格設定が可能になったのかなと思いました。

草郷:それはありますね。ただ、実は写真の部分は、結構苦労したポイントなんです。カメラ性能にばらつきがあって。

山内:なんと、そうでしたか。

草郷:先ほどお話ししたようにAndroidタブレットは無料で配布したので、それほど性能が良いものは採用できませんでした。端末によってはカメラ性能が低くて答案を提出できないという状況になった人もいました。サービスとしてはこの部分を売りにしていたので、利用者にはご迷惑をお掛けしました。

 カメラ性能が低い端末は、全て取り替えました。端末を一台一台検品して、問題がないものを発送しました。

 これを通じて、安価なAndroidタブレットの危うさを実感しました。もちろん事前に実証実験はしていたのですが、個体差まで把握できていなかったんです。

山内:カメラモジュールの質が安定していなかったんですね。何千台もあればそうした問題は出そうですね。カメラ以外は、混乱はありませんでしたか?