ワコールでシステム構築プロジェクトを指揮する大西輝昌氏(情報システム部 グループ情報システム課 課長)は現在、2015年春を目指してグループ全50システムのDB統合に取り組んでいる(写真)。旧システムのERPパッケージ「Oracle E-Business Suite 11」の保守切れを機に、ITインフラを刷新するものだ。

写真●ワコール  情報システム部 グループ情報システム課 課長 大西輝昌氏
写真●ワコール 情報システム部 グループ情報システム課 課長 大西輝昌氏
[画像のクリックで拡大表示]

 注目すべきは、そのアプローチである。約9割に当たるシステムは、老朽化したシステムを近代化する「モダナイゼーション」と呼ぶ手法を選択した。同手法は、要件定義を原則実施せず、現行機能をそのまま踏襲することで、少人数かつスピーディーに統合プロジェクトを進められる。

 「開発はとにかくスピードが大事。要件定義から始めたのではビジネスのスピードについていけない」。大西氏はモダナイゼーションを採用した理由をこう説明する。旧システムでも機能面の不満がなかったという事情がある。要件定義から始める新規開発プロジェクトに比べて、開発コストは5分の1、工数は4分の1に圧縮できると見ている。

プライベートクラウド環境に統合

 新システムでは、プライベートクラウド環境を構築した。具体的には、LinuxサーバーとVMwareを使った環境を構築。そこに新ERPパッケージ「Oracle E-Business Suite 12」と、統合データベース「Oracle Exadata」を導入した。旧システムの機能はほぼそのまま移行する。2014年春には、最も規模が大きい財務管理システムを載せ替えた。

 とはいえ、旧システムをベースにしたことで直面した問題もあった。「特に苦労したのは移行作業」と大西氏は打ち明ける。旧システムからデータを抽出して新システムのOracle Exadataに移す。だが、移行のリハーサルでトラブルが頻発。そこでリハーサルを想定以上の3回実施し、何とか本番の移行作業を乗り切った。

 さらに苦労したのは「経営層への説明」だった。そもそも刷新のきっかけは、ERPパッケージの保守切れである。これをそのまま経営層に説明しても「もうしばらく使えるだろう」と言われるのが関の山。どのIT現場にもよくある光景である。

 そこで大西氏は、インフラ刷新で性能が約30~40%上がること、データセンターへの移設によってBCP(事業継続計画)対策になること、そして現行機能の踏襲でコストを最小化できること、運用人員も大幅に減らせることなどを前面に出して説明。その結果、新プロジェクトのGOサインが出た。

 「もうあの要件定義は経験したくない」。大西氏は、約10年前に手掛けた大規模なシステム再構築プロジェクトをこう振り返る。開発期間には3年を要し、その多くを要件定義に費やした。あらゆる要求が各部署から挙がったのが原因だった。

 モダナイゼーションは「リビルド」「リホスト」「リプレース」「リライト」など、大きく九つの手法がある。いずれも現行機能を踏襲する。大西氏らが取り入れたモダナイゼーションは、このうちリプレースとリホストだ。ITインフラ刷新プロジェクトの有望なアプローチになりつつある。

 「ITインフラSummit 2015」では、そんな大西らの取り組みを紹介してもらう。ぜひこの機会にお聞きいただきたい。