業績評価のためのシステムとしてスタート

所長「世間には多数の経営指標があります」

榊田「営業利益率とか経常利益率。それに総資本利益率なんかも重要な経営指標ですね」

所長「これらの経営指標は、組織の経営状況をチェックするバロメーターです。バロメーターを見ながら、アクセルを踏んだりハンドルを切ったりする。ですから、経営指標のシステマチックな評価手法があったら便利でしょうね」

榊田「きっと便利ですね」

所長「実は本日取り上げるバランススコアカードは、かようなニーズから開発された手法です」

榊田「あれ。ち、ちょっと待ってください。バランススコアカードって、企業の戦略を策定するためのツールじゃなかったでしたっけ」

所長「ふむふむ。確かにキミのようにバランススコアカードを戦略策定のツールとして考えている人が多いようです。ただそれには誤解がありますね」

榊田「えっ、誤解ですか――」

 バランススコアカード、略してBSC(Balanced Scorecard)は、ハーバード・ビジネス・スクール教授ロバート・S・キャプランとコンサルティング会社社長デビッド・P・ノートンが1990年に発表したレポートに端を発する。

 この中でキャプランとノートンは、従来の企業の業績評価が短期的な「財務の視点」に偏りがちなのに着目した。そこで両名は、財務の視点に、非財務的な長期的視点として、「顧客の視点」「内部プロセスの視点」「学習と成長の視点」を加えて、これら四つの視点で組織の活動を総合的に評価しようとした。

 これがバランススコアカードの始まりだ。このように、上記のごとく当初は企業の業績を評価するシステムとしてそのスタートを切ったのである。

戦略をトップダウンで組織に浸透させる

榊田「へぇ、最初は業績評価のためのツールだったんだ」

所長「そうです。これがやがて、組織が持つ戦略を組織全体に浸透させるツールとして利用されます。なぜそうなったか説明する前に、再度、バランススコアカードの四つの視点に注目してください」

榊田「えーっと、(1)財務の視点、(2)顧客の視点、(3)内部プロセスの視点、(4)学習と成長の視点ですね」