世界を驚かせた日本発の経営理論

所長「著名な経営理論、ビジネス理論には、欧米から輸入されたものが多いものです」

榊田「確かにそうですね。ほとんど欧米、しかも米国だ」

所長「そんな中、世界に誇るべき日本発のビジネス理論があります。それが、本日紹介する組織的知識創造の理論です」

榊田「組織的知識創造の理論──。うーん、なんだか難しそうな名前ですね」

所長「これは、組織が持つ知識をいかに創造し、活用するのかを論じたものです。だからナレッジマネジメントの一つだと考えればいいですね。場合によっては組織的知識創造そのものをナレッジマネジメンと呼ぶこともあるようです」

榊田「で、理論の提唱者は?」

所長「当時、一橋大学教授だった野中郁次郎と竹内弘高が著作『知識創造企業』の中で提唱し、一般に広く知られるようになりました。いまから20年近く前の1996年のことですね」

 野中および竹内が提唱した組織的知識創造の理論では、日本企業の特徴の一つである連続的イノベーションが、いかに創り出されたのかにまず着目する。そして野中らがその源泉だと考えたのが知識なのである。

 日本企業は貪欲に外から知識を吸収する。この知識を組織内部で共有し、新たな技術や製品に転用して市場に供給する。このように組織の外から内へ、さらに内から外への知識変換プロセスに日本企業の強みがあった、と野中らは考える。そして、いわばこの知識創造が、連続的イノベーションを生み出し、さらにこれが日本企業の競争優位となったと指摘する。

 ならば、その日本的な知識創造プロセスの秘密とは──。この秘密を解き明かしたのが組織的知識創造の理論にほかならない。

まず理解したい「暗黙知」と「形式知」の存在

榊田「ふーん。日本独自の知識創造プロセスの秘密ですか。何だか面白そうですね」

所長「では、その本質に斬り込みましょう。最初に理解しておきたいのが、知識は暗黙知と形式知に大別できる、ということです」

榊田「暗黙知と形式知──」

所長「はい。まず、暗黙知ですが、ここでは職人さんをイメージしてください。職人さんの世界では、技術は親方から教わるものではなく、盗むものだとよく言われます。このように、ある知識が極めて個人的で、形式化したり他人に伝えたりするのが難しいもの、これが暗黙知です」