スティーブ・ジョブズ氏亡き後の米アップルに変化が起きつつあるように見える。ヘッドホンなどオーディオ製品の開発やストリーミング音楽配信サービスを運営する米ビーツエレクトロニクス(Beats Electronics、以下Beats)の買収(関連記事)、BtoB分野における米IBMとの業務提携(関連記事)などはその一例だ。

 そこで今回は、アップルの現実を綿密な取材を通して明らかにした書籍『沈みゆく帝国』の著者であり、ウォール・ストリート・ジャーナルでiPadなどをスクープした元アップル担当記者のケイン岩谷ゆかり氏と、イヤホン型デバイス「Plug Air」を開発し、アーティストとの提携も進めているBeatrobo創業者、浅枝大志CEO(最高経営責任者)による対談を実施。日本のベンチャー企業として急成長を遂げたドワンゴの会議室を会場に、ジャーナリストと創業者・開発者という異なる立場で「アップルはどう変わったのか、そしてどう変わっていくのか」について語ってもらった。進行はITpro編集部が務めた。


書籍『沈みゆく帝国』の著者でiPadなどをスクープしたウォール・ストリート・ジャーナルの元アップル担当記者のケイン岩谷ゆかり氏(左)とBeatrobo創業者の浅枝大志CEO
書籍『沈みゆく帝国』の著者でiPadなどをスクープしたウォール・ストリート・ジャーナルの元アップル担当記者のケイン岩谷ゆかり氏(左)とBeatrobo創業者の浅枝大志CEO
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買収や業務提携はもちろん、WWDCのセッションをネット上で全てオープンにするなど、最近のアップルの動きにはこれまでにはない変化が出てきている印象があります。

岩谷:それは私も感じています。私が著書『沈みゆく帝国』を書き終えたのは2013年11月でしたが、その頃はスティーブ(スティーブ・ジョブズ氏)後のアップルのビジョンが見えませんでしたし、ティム(ティム・クック氏、現アップルCEO)の発言を聞いても「アップルは変わっていない」という印象が強かった。しかしここ数カ月、雰囲気が変わってきたように感じています。

 これまでのアップルはスティーブの考え方が中心にあり、スティーブが興味を持ったことだけがビジネス化されてきました。しかし、ティムは冷静でロジカルに判断して経営を進めていくという印象があります。アップルがここまでの大企業になった今、これからどこが伸ばせるのかを考えたら、買収や業務提携などもしていかないと成長できないと思います。

浅枝:僕の印象では、スティーブの時代は自分たちで自分たちのビジネスを“破壊”して、さらに自分たちが代替案を“創造”していくという流れがあったと思います。例えばFireWireの採用をやめたといったことなどがいい例でしょうし、MacBookやiPodも新製品が出ると古い製品はすっぱりなくしたのでラインアップがとてもシンプルでした。

 しかし現在は、新しいMacBookが発売されても従来の製品がそのまま残っているケースがあります。選択肢が無駄に増えてしまい逆に迷ってしまうというのは、一ユーザーとしてはもどかしいですね。