ユーザー企業の業務を支えるITアーキテクチャーの策定を支援しています。最近特に増えているテーマは、最新ITを活用した業務革新です。

 例えば最新ITの活用事例として、ある流通企業では、ショッピングモール内での顧客の位置情報や滞在時間、購買履歴、店舗のキャンペーン情報などを基に、顧客に情報をタイムリーに提供する仕組みを運用しています。データ分析技術と、大量のデータをリアルタイムに処理するCEP(Complex Event Processing、複合イベント処理)技術を組み合わせて実現したものです。

 こうした業務革新の案件は開発スピードが要求されます。情報システム全体の最適化を検討する余裕がありません。利用部門の担当者からも「業務要件の実現とシステム構築の納期厳守が最優先。全体最適は後で考えればよい」と求められます。

 しかし、ITアーキテクトはこの主張をそのまま受け入れてはいけません。全体最適を考慮せずに技術を導入すると、情報システムのサイロ化やテクノロジーの乱立といった問題を招きがちです。後で運用保守コストの増大などに悩まされます。

 やはり理想は、業務革新と情報システムの全体最適の両立です。理想の実現には重要なポイントが三つあります。一つ目はアーキテクチャーの原則を定め、それを判断軸に技術方式を選択すること。二つ目は、革新性と全体最適のようなぶつかりやすい要求をバランスさせるリファレンスアーキテクチャーを参考にしてシステム構成を決定すること。三つ目はこれらをユーザー企業のリーダーが納得し、決断することです。これら三つのポイントを関係者に丁寧に説明することが、ITアーキテクトの責務だと私は心得ています。
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