クラウド時代の本格的な到来に呼応して、新しい技術が次々と登場しています。ところが、必要にもかかわらず革新が見られない分野があります。データモデリングです。E-R図やUML(Unified Modeling Language)といった既存の記法は、今や古いものと言わざるを得ません。

 E-R図であれ、UMLのクラス図であれ、基本的には「商品」や「注文」といったデータ項目の集まりであるエンティティー間の関係でデータモデルを作ります。しかしこの前提は、クラウドで稼働するシステムには馴染みにくいものです。

 分散システムであるクラウドは、データの一貫性を必ずしも保証しません。一貫性の保証はコスト高になるためです。Webシステムを例に取ると、個々のセッション単位ではデータの一貫性を保証するものの、異なるセッション間ではデータを同期させませんよね。一貫性を緩めることによってスケーラビリティーを高める工夫です。

 このような個々のセッションではデータの一貫性を保証し、異なるセッション間では一貫性を取らないデータモデルを既存の記法で描こうとすると、手が止まります。「あるセッションの書き込みデータを別のセッションで読み取る場合に限って同期を取る」といった例外的な状況を正確に描けないからです。エンティティーの具体例であるインスタンス単位のモデリング記法が必要です。

 また、最近のビジネスではトランザクションデータの重要性が高まっています。顧客の購買データなどが典型ですね。一方、既存のデータモデリングはマスターデータ中心で、トランザクションデータやログなどに対する表現能力は決して高いとは言えません。